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査読者がアヴァンディア総合解析論文を製造元会社にリーク

2008-04-22

(キーワード:学術雑誌論文・査読者の倫理・GSK・出版上の倫理・利益相反)
 
 2007年の注目情報(※1)で取り上げられているニッセン氏が作成した経口糖尿病治療剤ロシグリタゾン(商品名アヴァンディア、日本未発売)の心臓血管リスクの総合解析論文(※2)はニューイングランド医学雑誌に掲載された。この論文は社会的に大きな反響を呼び、米国食品医薬品庁(FDA)は諮問委員会の召集を表明、下院は公聴会を開催した。 実はその論文の査読者の一人が、雑誌が出版される前にロシグリタゾン製造元のグラクソ・スミスクライン(GSK)社に論文原稿をファックスしていたことが、その後上院委員会で明らかにされた。製薬会社と研究者の利益相反だけでなく、学術雑誌出版の査読者の倫理や利益相反が改めて問われている。
 以下、ランセット誌論説(※3)の要約である。
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 ロシグリタゾンによる心臓血管リスクの総合解析論文は、2007年5月にニューイングランド医学雑誌(NEJM)に最初に掲載された。2008年1月30日付けのニューヨークタイムスによると、そのNEJM査読者の1人である、テキサス州サンアントニオのテキサス大学健康科学センター医学部の高名なスティーブンハフナー教授が、雑誌が発行される前にロシグリタゾン(経口糖尿病治療剤アバンディア)製造元であるグラクソ・スミス・クライン(GSK)社へ論文原稿のコピーをファックスしていたという。この驚くべき査読者の秘密保持違反は、チャールス・E・グラスリー共和党上院議員の上院における薬の安全に関するスピーチの中で公表された。指摘された教授もこの事実を否定しておらず、ランセット誌に対し、医学雑誌への信用を貶めたことを深く謝罪したいと語った。NEJM誌は「査読(peer-review)の過程は秘密を維持すべきと考えている。倫理違反は深刻なことではあるが、個人的な問題として処理されるべきである」と短くコメントした。テキサス大学学部長はメディア報道にすばやく反応し、大学として迅速で的確な調査をすると宣言した。
 査読はある特別な雑誌と査読者の個人的な仕事ではない。それは両者の信頼から成り立っている。しかし、その活動はもっと幅広い影響をもたらす。査読者なしでは、科学的研究や出版のすべては基盤を失ってしまう。だが、いまだに査読にはそれに値する学術的名誉は与えられず、また通常、査読者を評価する方法の一部分にもなっていない。
 査読の不正行為は、出版倫理上編集者や専門家にとって対処することが最も難しい分野の一つである。証明がしばしば不可能であり、何が適切な制裁なのかについて明確なコンセンサス(合意)がない。出版倫理委員会(COPE)は、査読者の違法行為のいくつかの事例に助言を与え、それらには、マル秘資料の不適切使用や利益相反が大きく含まれている。COPEの経験では、査読者と学術誌の間の契約として大学が見なしていることなので通常はかかわりを持ちたくないのである。それだから、ハフナー氏の所属大学による回答は、公正で独立した調査がなされるものなら歓迎できるものである。
 査読者がもっている利益相反は、すべての人々がもっと真剣に考える必要がある。ハフナー氏はGSK社と経済的関係があった。[引用者註:ピンクシート誌2008年2月4日号によると、1999年以来、GSK社からコンサルタント料ないし講演料として約7万5千ドル(約900万円)を受け取っていて、グラスリー上院議員(共和党)はGSK社がこれをどのように扱ったかを追及している。] 教授はそのことをNEJM誌に申告したと述べていた。学術誌は査読の前に、利益相反の開示を要求する明確な方針を持つべきである。編集者は、利益相反という理由で査読者として不適任でないかどうか、その入り口のところで注意深く判断すべきである。査読者は、資金的関係だけでなく、すべての利益相反を申告する必要がある。時として、競い合っている意見あるいは個人的な関係が、より重大で気づきにくいバイアスをかけていく。
 すべての編集者,査読者そして著者は、査読過程での完全な公正さを保護し向上させることに注意を払わなければならない。科学に対する社会の信頼はそれに拠っている。(NK)