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抗うつ薬臨床試験結果の出版バイアスの実態

2008-03-31

(キーワード:出版バイアス、抗うつ薬臨床試験、FDA、パキシル) 

 医薬品の有効性・安全性に関するネガティブ(否定的な)データは、ともすれば公表されないことが多く、このため、医薬品評価の際に偏りが生ずることが従来指摘されてきた。これを出版バイアスと言う。出版バイアスについては、この「注目情報」でも2007年10月17日付「医学雑誌編集者国際委員会(ICMJE)が臨床試験登録制を改訂」の記事(※1)の「註1」で紹介し、また、本会の機関紙でも、光石忠敬弁護士が第6号と第28号において言及している。
 オレゴン保健科学大学のEric H.Turner医師(FDAの医学評価委員を勤めている)は、ニューイングランド医学雑誌2008年1月17日号(252−260頁)において、抗うつ薬の臨床試験結果の「出版バイアス」について調査した結果を報告した。この調査は、FDAが1987年から2004年の間に認可した12種類の抗うつ薬に関する臨床試験(被験者総数12,564 人)結果の公表の度合い等を調べたものである。   
 調査の結果、FDAに登録された74試験のうち、公表されていたのは51試験(69%)で、残りの23試験(31%)は公表されていなかった。それらの試験の主要エンドポイント(評価項目)に関してFDAがポジティブと判定したのは38本で、これらのうち、37本(97%)が公表されていた。これに対し、FDAがネガティブと判定したのは24本で、うちFDAの判定どおりの内容で公表されたのは3本(12%)に過ぎず、16本(67%)は公表されず、また、5本(21%)は公表はされたが、FDAの判定とは逆の「ポジティブ」とされていた。薬剤別に見ると、公表されなかった本数が最も多かったのは、グラクソ・スミスクライン社のパキシルで、6本あった。
 以上から、今回のデータでは、開発した製薬会社に不都合な試験結果の3分の2が公表されず、また5分の1がFDAの判定とは逆の内容で公表されているという実態が明らかになった。
 著者らは結論で、「臨床試験の結果を選別して報告することは、研究者、試験参加者、医療専門家、患者にとって有害でありうる」と述べているが、まさにその通りである。   (K)