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パーキンソン病治療剤カバサール 心臓弁膜症リスクの情報伝達が不足

2007-12-06

(キーワード: カバサール、ペルマックス、パーキンソン病治療ドパミン作動性麦角剤、心臓弁膜症リスク、情報伝達不足)

 パーキンソン病治療剤であるペルマックス(一般名メシル酸ペリゴリド)、 カバサール(一般名カベルゴリン)などのドパミン作動性麦角剤が、炎症性繊維化反応により心臓弁膜症を起こすことが問題となり、米国では2007年3月ペルマックスが市場から撤去された。
 一方、カバサールについては、FDA(米国食品医薬品庁)は、「米国ではパーキンソン病に対しては承認されておらず、承認されている高プロラクチン障害に対するカバサールの用量はパーキンソン病(未承認)に対する用量よりもかなり低いため、心臓弁膜症のリスクは少ない」ことを理由に、市場から撤去していない(※1)。

 日本では、カバサールもペルマックス同様、パーキンソン病の適応を有している。
 厚生労働省は2007年4月19日付で、ペルマックスとカバサールについて、添付文書の改訂を指示した。これを受けて「使用上の注意」に、両剤ともに長期間の投与で心臓弁膜症があらわれることがあるため、心臓弁膜の病変が確認された患者などを禁忌とし、投与中の心エコー検査を実施することなどが追記された。また、「効能または効果に関する使用上の注意」項が新設され、非麦角製剤の治療効果が不十分または忍容性に問題があると考えられる患者のみに投与することが記載された(※2)。
 しかし、医師に対して心臓弁膜症、心エコーでの心臓弁逆流例についての情報提供を呼びかけたり、疫学的調査を行うことなどはなされていない。

 要するに、日本では、両剤はそのまま販売が続けられ、ペルマックスが米国で市場から撤去されたことが一部の医師・患者の注意を引いたものの、カバサールにはあまり注意が向けられていないのである。
 しかし実は、ヨーロッパで実施された2つの独立した疫学研究(イギリスとイタリア)の結果では、心臓弁膜症に対する危険度はペルマックスもカバサールも同程度であり、用量が増すにしたがってその危険性も増すことが報告されている。
 さらに、日本における使用法では、カバサールの危険性の方が高いのである。
 日本でカバサールの危険性の方が高い理由は、ペルマックスとカバサールの使用量の違いによるものと考えられる。ペルマックスとカバサールは、用量(mg)が同じであれば、効果は同じと考えられているが、日本でのパーキンソン病に対する臨床用量はカバサールの方がベルマックスの2倍から3倍の高用量に設定されているためであろう。実際、後述の山本らの調査結果では、1日平均使用量はペルマックス(平均1.4mg)より、カバサール(平均3.8mg)のほうが3倍近く多かった。
カバサール 維持量1日2-4mg
ペルマックス 維持量1日0.75-1.25mg(通常エル・ドーパ製剤と併用)
 英国ではペルマックスの常用量は1日2〜2.5mg(上限5mg)、カバサールの常用量は2〜6mgであり、実際の使用量もイギリスでもイタリアでも、ほとんど同程度である(上記疫学調査)。
 カバサールの危険性を指摘した疫学調査論文が、神経学分野の国際的医学雑誌に2006年に発表された(ヨーロッパの調査結果の前で、今回使用上の注意が改訂される前年に掲載されたNeurology、67、1225-1229、2006)。
 香川県立中央病院の山本(神経科、筆頭著者)、上杉(心血管科、超音波心臓検査の読み取りを担当)、中山(京大健康情報学、データ解析を担当)の共著論文で、香川県立中央病院患者による研究である。
 以下にその要点を紹介する。
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 この研究は、ドパミン作動性パーキンソン病治療剤による心臓弁膜症の頻度を知ることを目的に行った。
 2004年9月から2005年9月の間に香川県立中央病院に入院し、胸部超音波心臓検査と心電図を調べたパーキンソン病の連続患者210症例について、全員に心エコー検査をし、ドパミン作動剤の種類別に、心臓弁膜症の頻度を、ドパミン作動剤が投与されていない患者集団を対照として比較した。
 1日平均投与量は、カバサール投与群3.8mg、ペルマックス投与群1.4mg、非麦角剤であるビ・シフロール投与群1.7mgであり、カバサールの投与量はペルマックスの約2.2倍であった。心臓弁膜症の頻度は、対照群17.6%(15/85)と比較し、カバサール投与群は68.8%(11/16)で有意に高率であった。ペルマックス投与群(28.8%、19/66)と非麦角剤であるビ・シフロール投与群(25%、4/16)の頻度は変わらなかった。
 薬剤のリスクを示す指標である調整オッズ比は、対照群を1として、ペルマックス投与群2.18、ビ・シフロール投与群1.62であったが、カバサール投与群では12.96であった。
 カバサール投与で心臓弁膜症がみられた症例の累積投与量・期間は、みられなかった症例のそれらよりも多かった。
 この調査結果は、パーキンソン病患者に対するカバサール常用量の長期使用は心臓弁膜症のリスク因子となることを示している。
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 心臓弁膜症の多くは症状としてあらわれない(無症候性)が、一部は心不全など重症化する症例が存在することが明らかになっている。今回の日本の情報伝達では、この副作用が投与量に依存し、カバサールないしその使用量により注意を向ける必要があることが、伝わらない。今回「非麦角製剤の治療効果が不十分または忍容性に問題があると考えられる患者のみに投与すること」との使用制限がつけられたことは評価されるものの、情報が適切に伝達されないと、避けることのできた薬害が引き起こされるのである。 (T)