注目情報

  1. ホーム
  2. 注目情報

企業主導のランダム化臨床試験論文におけるゴーストライターの存在

2007-05-07

(キーワード  臨床試験論文  企業主導試験 ゴーストライター) 

 臨床試験の結果をまとめた論文には、厳密な科学性が要求される。そして、その著者は、開発企業からは独立した、中立的な立場の研究者であることが必要である。ところが、洋の東西を問わず、企業が主導した臨床試験には、企業関係者が大なり小なり、その論文化にも関わっているが、それらの関係者の名前は伏せられ、「ゴーストライター」になっていると言われてきた。英国の精神医学者デイヴィッド・ヒーリー教授は、その著書“LET THEM EAT PROZAC” (田島治監修、谷垣暁美訳「抗うつ薬の功罪 SSRI論争と訴訟」みすず書房、2005年)において、ファイザー社のSSRIであるゾロフトに関する論文55編のうち、「執筆者たちが自分たちの報告している研究の生のデータに触れたと思われるのは5編だけである」(訳本162頁)とし、一般に「治療に関する論文の50%までがゴーストライターによって書かれている」(同、347頁)とも記している。
 以下に要約を紹介するデンマークのGøtzscheらの調査研究は、「ゴーストライター」の実態を明らかにした数少ない論文と考えられる。「謝辞」にのみ名前が記されている場合を含めると、44試験中実に約9割に当る40試験に「ゴーストライター」が存在したというのである。関連文献1では、この研究は、「ゴーストライター」の実態についてのエビデンスを示したユニークなもの、と評価している。このような「ゴーストライター」は、我が国でも当然存在していると考えられ、その実態がまず明らかにされる必要があろう。

---------------------------------------------------

医学誌編集者国際委員会(ICMJE)は、研究の企画やデータ収集と解析を行い、論文作成に実質的に関与した人は論文にその名前を載せるべきとガイドラインで定め、米国製薬研究団体(PhRMA)もこれを推奨している。しかし、この原則に違反した論文が多いのではと言われてきた。
1998年に、米国医師会雑誌(JAMA)に発表された論文(関連文献2)では、809の論文中13%にゴーストライターが存在したと報告されている。しかし、この調査は、回答の回収率が69%であり、回答した人がゴーストライターの存在を認めたがらず、過小評価をした可能性がある。
われわれは、デンマークのコペンハーゲンとフレデリクスベルグの科学倫理審査委員会から1994〜1995年に同委員会の承認を受けた臨床試験のプロトコールの提供を受け、対応する発表論文と突き合わせることで、ゴーストライターの存在について検討した。
承認された274のプロトコールのうち、172試験(63%)は行われなかったり、完了しなかったり、論文として発表されていない。結果が公表された102の臨床試験のうち、56試験が企業のサポートを受けていた。そのうち、医師が主導の12試験は除外し、44試験について分析した。33試験(75%、母比率の95%信頼区間は60〜80%)にプロトコールの作成、試験解析、論文執筆に関与したゴーストライターの証拠があった。著者ではないが謝辞に記載されている場合も含めると40試験(91%、母比率の95%信頼区間は78〜98%)にゴーストライターが存在した。31試験ではゴーストライターは試験解析担当者であった。この結果から、ICMJEのガイドラインはかなり無視されていることが示唆された。
このような事態の改善のためにはプロトコールが公開され、誰でも見られるようにすること、論文著者各自が担当した役割の記載などが考えられる。          (K)

文献
Gøtzsche PC, Hrobjartsson A, Johansen HK, Haahr MT, Altman DG, et al. (2007)Ghost Authorship in Industry-Initiated Randomised Trials. PloS Med 4(1): e19 doi:10.1371/journal.pmed.0040019 (※1)

関連文献
1.Wager E (2007) Authors, Ghosts, Damned Lies, and Statisticians. PLoS Med4(1):e34 doi:10.1371/ journal.
pmed.0040034 (※2)
2.Flanagin A, Carey LA, Fontanarosa PB, Philips SG, Pace BP, et al. (1998) Prevalence of articles with honorary authors and ghost authors in peer-reviewed medical journals. JAMA 280:222-224.