注目情報

  1. ホーム
  2. 注目情報

米国医師会(AMA)が製薬企業のMR(医薬情報担当者)などの医師処方データへのアクセスを制限する方策

2006-11-02

(キーワード:米国医師会,AMA,個々の医師,処方情報,製薬企業,MR,
アクセス制限)

 米国医師会(AMA)は2006年7月に,医師処方情報へのアクセスを制限するプログラム(Prescribing Data Restriction Program, PDRP)をスタートさせた。これについてAMAのウェブサイト記事(※1,2)およびニューイングランド医学雑誌記事(※3)からまとめ,紹介する。
 日本では被保険者が加入している保険の種類が異なると,治療・処方の情報が共有できないという制約があり,個々の医師処方もデータベース化されていない。そのため日本の製薬企業は処方情報取得を,医師へのアンケート調査やMR(医薬情報担当者)からの情報に頼っている。このような背景から日本のMRによる個々の医師への売り込みは米国よりも凄まじいものがある。しかしながら経費節減のために処方データベースを利用しようとする狙いは強くなって来ており,医療情報のIT(電子情報技術)化が叫ばれている。
 確かに処方データベースは迅速な副作用対策への活用などプラスの面も持つが,販売戦略の手段として使われる危険性を併せ持っている。現に韓国では保険一元化を契機に医師処方のデータベース化が実現し,早速この情報を用いた販売合戦が繰り広げられていると聞く。今後日本でも医療情報のデータベース化が進むと予想されるが,医療分野では個人情報の目的外使用・悪用という問題が常にまとわりつくことを忘れてはならない。その意味で米国の事例は決して対岸の火事ではなく,学ぶべき多くの教訓を含んでいる。
 以下は記事の要旨である。

-------------------------------------------------------

AMAは医師処方へのアクセスを,(1)エビデンスに基づく薬剤安全
性の研究,(2)公衆衛生施策を決定または促進する上で必要なモニタ
リング,(3)商品価値とコストとの釣り合いを研究するための目的の
鮮明な研究(アウトカム研究)や薬剤経済学的分析,(4)生物テロへ
の監視業務,(5)臨床ガイドラインの発展,(6)疾病管理プログラム,
(7)政府の健康関連プログラムの変化分析,等に利用できるとして,
広く認めていた。しかしながら処方情報を悪用したMRからの売り
込みなど,自社製品を処方させる圧力に利用する例が多々あり,医
師からの反発を招いていた。

個別処方を知る仕組みは次の通りである。1990年代の初めよりIMS
Healthなどの医療情報会社は,薬局その他の情報源から購入した処
方箋に関する電子データと,AMAから購入した個々の医師について
詳しい情報の入ったマスターファイルを付き合わせ,ほぼ個々の医
師の処方内容を具体的に把握していた。医療情報会社からこの情報
を購入した製薬企業は,その情報を製品開発や副作用情報の取得に
役立てるという名目のもとで,医師への自社製品の売り込みやMR
の成績査定にまで転用していた。自己の処方内容情報を利用して売
込みされる医師は当然これに反発するというわけである。

AMAはこの問題に関する委員会を2004年に立ち上げ,意見聴取を
重ねていた。今回の措置は,医師側からの反発に押されての妥協案
である。しかし,製薬企業の手に渡ったデータが販売目的に使われ
ることがないのかは疑問視されている。ニューイングランド医学雑
誌は「売り出し中:医師処方のデータ」という題名の記事で,AMA
が個々の医師について詳しい情報の入ったマスターファイルを,営
利会社であるIMS Healthなどの医療情報会社にも販売し,その総
額は2005年度4450万ドル(約50億円)に達すると指摘している。
そしてマスターファイルの用途に関して営利会社任せとなっている
ことに懸念を表明している。

一部の州ではすでに法律で製薬企業から医師の処方情報にアクセス
することを禁じている。今回の制限プログラムが不十分な結果に終
わった際には,各州で禁止のための立法化が進むと予想されている。
(YT)
  
関連文献
※1について
AMA's Prescribing Data Restriction Program (PDRP) as reported in Pharmaceutical Executive
※2について
Musacchio RA and Hunkler RJ. More Than a Game of Keep-Away.
 Pharmaceutical Executive May 2006.
※3について
Steinbrook R. For sale: physicians' prescribing data.
 NEJM 2006;354(26):2745-2747