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メタボリック・シンドローム:プレスクリール誌が不自然で不適切な診断と批判

2006-10-18

(キーワード:、メタボリック・シンドローム、診断基準、肥満、高血圧、糖尿病、高脂血症)

 40歳以上の940万人がメタボリック。2006年6月、こんな見出しの記事が新聞や雑誌で報道された。これは厚生労働省がまとめた「2004年国民健康・栄養調査結果の概要」(※1)を受けてのものである。この概要によると、日本の40-74歳推計人口約5,700万人のうち、メタボリック・シンドローム(内臓脂肪症候群)の人は約940万人、その予備軍が約1,020万人、合わせて約1,960万人だという。男性の2人に1人、女性の5人に1人は、肥満に加えて高血糖、高血圧、高脂血症の危険因子を持ち、心疾患や脳血管疾患発症のリスクが高い人だと推定されたということである。

 そして、2006年7月25日には、厚生労働省の厚生科学審議会・地域保健健康増進栄養部会で健康増進普及月間(2006年9月1日〜9月30日)の統一標語の採用が決定された。その標語は「1に運動 2に食事 しっかり禁煙 最後にクスリ〜良い生活習慣は、気持ちがいい!〜」。この月間で厚生労働省と行政機関の目標のひとつとされたのは「メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の認知度の向上」である。

 さてそれでは、そもそも「メタボリック・シンドローム」って何?、どのように診断されるのか? 高血圧なら、血圧を測ればわかるし、血糖値が高いと高血糖で糖尿病の疑いとなる。では、メタボリックの診断は?

 フランスの独立医薬品情報誌(プレスクリール・インターナショナル2006年8月号)(※2)に、メタボリック・シンドローム診断の問題点を指摘する論文が掲載された。以下にその要旨を紹介する。

 高血圧や高脂質血症、痛風が同じ人で起こりやすいことや、インスリン抵抗性(インスリンの作用が不十分で高血糖になること)という概念は1920〜30年代頃から言われていた。そして1970年代にはドイツの研究者により「メタボリック・シンドローム」という言葉が提唱された。

 その後、1998年になって、WHO(世界保健機関)がメタボリック・シンドローム診断基準を提示し、1999年にはヨーロッパ専門家グループがWHO基準の修正版を公表した。2001年には米国コレステロール教育プログラムによる基準、2003年には米国臨床内分泌学会の基準、さらに2005年には国際糖尿病連合基準と米国心臓学会/米国国立心肺血液研究所の基準が発表されるにいたり、世界ではすでに6つの診断基準が乱立している(注:日本では日本内科学会など8学会合同による診断基準が2005年に公表された。)そして、色々な団体が作成した診断基準ごとに、どの項目が必須として重視されるか、また何項目あればメタボリック・シンドロームと診断されるのかが違っていて、どの基準がもっとも妥当かという結論は出ていない。つまり、現段階ではまだ、どれもあいまいな基準だということである。また、心疾患や脳血管疾患に対する糖尿病の重要性が加味されていなかったり、これら疾患の重要な危険因子である「喫煙」がどの基準にも含まれていない、などの問題点がある。

 そもそも、なぜメタボリック・シンドロームとしての診断が必要なのか? 心疾患や脳血管疾患、糖尿病になる危険性の高い人を見つけて、それを事前に予防することにあるのだろうが、疾患になる危険性というのは、さまざまな原因が関連して増加するものであり、危険性あり/なしというように、どこかで線引きできるものではない。また、少しでも危険性のある人を広く拾い上げて予防の対象としようというと、合理的に聞こえるかもしれないが、診断基準があいまいで正しく診断できないとしたら、本当に治療すべき危険性の高い人を診断からもらしてしまう危険性もある。

 メタボリック・シンドロームというあいまいな基準で診断することは、高血圧や高脂血症、糖尿病、肥満といった個々の危険因子を検討した中で適切な予防や治療を行うこと以上に意義あることなのか? 現段階ではその意義はない。(Y)

参考資料
・※1平成16年 国民健康・栄養調査結果の概要.健康局総務課生活習慣病対策室. http://www.mhlw.go.jp/houdou/2006/05/h0508-1a.html[2006-10-11]
・※2 The metabolic syndrome; An artificial and irrelevant notion. Prescrire International 2006; 26(273): 444-7.