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処方医薬品の消費者向け直接広告におけるニュージーランドとオーストラリアの動き

2006-05-22

(キーワード: 消費者向け直接広告、DTC広告、疾病啓発、医薬品規制)

 医師の処方を必要とする医薬品に関して、消費者向け直接広告(Direct-To-Consumers Advertising: DTC広告)を行うことは、日本を含め、ほとんどの国で認められていない。現在、アメリカとニュージーランドだけがこのDTC広告を認めているが、両国でもその弊害は指摘されてきている。ニュージーランド政府は、処方医薬品のDTC広告に対する批判を受けて制度の見直しを検討中であり、DTC広告規制に関するパブリック・コメントを求めていた。これに対し当会議は、2006年4月28日、ニュージーランド保健省に対し、DTC広告の禁止と疾病啓発広告の規制を行う案を支持する内容のパブリック・コメントを提出した(※1)。
なお、ニュージーランドとオーストラリア両国政府は、治療用製品に関する両国共通の規制局(the trans-Tasman therapeutic products agency)をおき、規制調和をはかることに合意している。そのことを踏まえ、ニュージーランドでのDTC広告とその規制における問題点を指摘する論説が、オーストラリアン・プレスクライバー誌(オーストラリアにおける独立医薬品情報誌)2006年4月号(※2)に掲載されている。著者のLes Toopらは、ニュージーランド オタゴ大学 公衆衛生および一般臨床分野の教授達である。以下にその概要を紹介する。

標題:ニュージーランドにおける処方医薬品の消費者直接広告の影響
:オーストラリアへの教訓

   DTC広告を支持する人々からは、言論の自由、広告の自由、新薬に関
する有用な情報提供、消費者が十分な情報を得ることでパターナリズ
ムから脱却し、医療の主役となるために必要なものである、などの主
張がなされている。しかし、ニュージーランドにおけるDTC広告の
実情は、それが部分的でバランスを欠いた情報提供であり、また、情
報提供にとどまらず、消費者に商品選択を促す影響力を持つようにデ
ザインされ、作られているものであることを示している。

   医師は、DTC広告の影響を受けて薬の処方を求めてくる患者の訴えに
対応するために、多大な労力を払うことになり、また、患者の求めに
応じようとすれば、本来の医学的合理性のある処方が難しくなること
さえ起こりえる。

   これまでニュージーランドでもDTC広告が全くの野放しであったわ
けではなく、TAPS(Therapeurtic Advertisng Pre-vetting System)と
呼ばれる、医薬品・医療機器広告事前審査システムが存在している。
しかしこれは、広告をする側の企業による自己規制の域を出ないもの
である。また事前審査といっても、広告の正確さや内容のバランスに
まで踏み込むものではない。しかも、審査する組織は企業からの資金
提供による基金で運営されているため、企業が自己採点をしているよ
うなものである。違反に対する罰則として、広告・宣伝が中止させら
れることはあるが、罰則が適用されるころには、宣伝・広告の目的を
十分達成した後ということも多い。そして、すでになされた宣伝・広
告内容の訂正情報が出されることはほとんどない。

   我々は2002年、DTC広告を禁止するべきであるという意見書をニュ
ージーランドの全一般臨床医向けに送り、また2003年にはニュージ
ーランド保健省あてにDTC広告の問題に関する報告書を提出してい
る。ニュージーランド内閣は、今後ニュージーランドとオーストラリ
アの医薬品規制における調和を実施するにあたって、DTC広告問題を
検討するとしている。両国の規制調和の過程において、DTC広告が禁
止となったとしても、今度は疾病啓発広告のような新たな問題に直面
するであろう。

   ニュージーランドの経験から言えることは、DTC広告とそれに関連す
る問題は、中央による規制でも、企業による自己規制でも、容易には
解決しないということである。仮に禁止ではなく規制という形をとる
ならば、1)企業ではなく独立した組織による事前審査を義務付ける、
2)広告実施状況のモニタリングを行う、3)厳正な罰則を課す、などの
厳しい規制が必要である。そして、DTC広告を完全に規制することは
不可能であることから、企業から独立した医療消費者向け情報のより
いっそうの充実が望まれているのである。
                        (Y)