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成人癌に対する細胞毒性化学療法は今後も存続しうるか

2006-03-14

(キーワード:  成人癌、細胞毒性化学療法、有用性に対する問題提起)

 オーストラリアでは今「成人の悪性腫瘍5年生存率に対する細胞毒性化学療法の貢献」という文献*が話題を呼んでいる(※1、2)。成人癌の場合、化学療法によって得られる生存率の改善は3%未満であるというのがこの文献の結論である。

激論のきっかけとなったこれらの数字は、成人悪性腫瘍22疾患に関する全てのランダム化比較試験(RCT)を検索し、細胞毒性化学療法単独での5年生存率を調査した結果得られたものだった。これらの癌の中には、消化器癌, 肺癌, 乳癌、前立腺癌等の一般的癌も含まれている。調査の基礎資料は オーストラリアおよび米国の癌登録データで、1998年度に新規登録された患者が対象となった。この本では、細胞毒性化学療法による利益を表す絶対数を、次のような積で表した。細胞毒性化学療法による利益=癌患者総数×改善のあった患者数×細胞毒性化学療のみによる5年生存の増加割合。そして、全般的な貢献度は、〔5年生存で改善の見られた患者総数〕/〔成人悪性腫瘍22疾患すべての患者総数〕とした。このようにして、手術・放射線・化学療法など全ての介入治療を総合すると、癌の生存率は約63%であったが、成人癌に対する化学療法の貢献度はオーストラリアで2.3%、米国で2.1%となった。

「癌患者の生存率に対する化学療法の貢献度は低く、細胞毒性化学療法が今後も、存続し、研究費を調達するためには、費用対効果やQOL(生活の質)へのインパクトを真剣に考える必要がある」というのが、この本の著者らの意見であり、その中には2人の腫瘍学者(放射線・腫瘍学者と腫瘍内科医)も含まれている。

 一方、他の腫瘍学者の間からは、白血病や小児癌など化学療法が優れた効果を現していることを指摘したり、対象患者を選ぶことによって生存率はもう少し高められるのであり、このような登録データをもとに効果を算出する研究方法に疑問があるという反論もある。しかし、延命効果を支持するエビデンスがあるといっても、たかだか何か月の差しかないという現実や、生命の危険も伴う有害副作用との危険対益比を考えれば、癌化学療法開発のあり方について冷静に考える時期にきているのかもしれない。

* Morgan G, Ward R et al. The contribution of cytotoxic chemotherapy to
5-year survival in adult malignancies. Clin.Oncol. 2004; 16:549-60,2004.

                             (B)