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特許切れ薬を注目の新薬に併用させるための比較臨床試験デザイン

2005-09-16

 (キーワード: リピトール、特許切れ企業戦略、新薬比較臨床試験デザイン)

 新薬が販売承認される時、承認される対象疾患、用法用量などは、基本的に第3相比較臨床試験で用いられた対象疾患、用法用量などに従って決められる。新薬の第3相比較臨床試験デザインは、そういう意味で非常に重要な位置を占めている。そのことを悪用して特許切れが近い自社の主力製品を、注目されている自社新薬に併用させて特許切れ後も強引に用いさせようとする露骨な営業戦略が、世界最大の製薬企業ファイザーによってとられ、これを批判する論説が米国のニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(NEJM)誌に掲載されているので、紹介する(NEJM352,2573-76,2005.6.23)。

 トルセトラピブは、しばしば「善玉コレステロール」などと呼ばれる高比重リポ蛋白(HDL)コレステロールを増加させる注目の薬剤で、ファイザーが開発中である。このトルセトラピブのファイザーによる第3相比較臨床試験計画が論議を呼んでいる。ファイザーは、この新薬の臨床効果を既存のアトルバスタチン(リピトール)に上乗せさせるデザインで検討すると発表したからである(トルセトラピブ+アトルバスタチン配合 VS アトルバスタチン単独のデザインで、13000症例の患者で心筋梗塞、脳卒中発生率に対する臨床効果を検討)。
 FDA(米国食品医薬品局)には、ファイザーからトルセトラピブの単独データや他のゼネリック(後発品)スタチンとの併用データでなく、トルセトラピブ+アトルバスタチン配合錠のデータのみが提出されるので、FDA(米国食品医薬品局)はこの上乗せ効果が実証されれば、本剤をアトルバスタチン(リピトール)に上乗せして用いる用法・用量のみで承認すると見られている。
 アトルバスタチン(リピトール)は、現在世界で最も売上高の大きい医薬品として知られる、コレステロール低下剤[低比重リポ蛋白(LDL)コレステロール低下剤]で、ファイザーの年間全利益の半分は、リピトールで得られている。このリピトールは、2010年に特許が切れる。今回のトルセトラピブの比較臨床試験のデザインは、それを見越してのファイザーの営業戦略と見られている。
 NEJM誌の論説「トルセトラピブとアトルバスタチン─研究計画は営業戦略が動かせるものなのか?」で、ハーバード大学医学部ジェリー・エイボーン教授は,これは抱き合わせの使用を余儀なくさせて医療費の高騰化をもたらし、またリピトールを臨床的に使えない患者はトルセトラピブを用いられないのか、HDLは上げたいがリピトールを用いたくない医師はトルセトラピブを用いられないのかなどの問題を生じさせ、企業の利益には貢献しても公衆衛生には不利益をもたらすと、強く非難している。

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