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 これまでに薬害オンブズパースン会議は、アビガンについて計4回に渡って意見書を出し、一貫して、アビガンは効果もない上に強い催奇形性をもつ毒性の強い薬剤だと主張してきました。そして、2022年3月末に富士フイルム富山化学は、新型コロナウイルス感染症の患者を対象とした国内臨床第三相試験は有効性を示せないままに終了すると発表しました。

 始まりは、2020年4月に安倍総理(当時)が記者会見で、「観察研究」の仕組みの中でアビガンを希望する患者への使用をできる限り拡大すると述べたことでした。同じ頃、マスコミはアビガンをテレビや雑誌で数多く取り上げ、一芸能人が内服し効いたらしい! という報道を繰り返し、日本発の薬アビガンはすばらしい薬! という空気が瞬く間に流れました。病院薬剤師として何度も患者が様々な薬の副作用で苦しむ姿を見てきたため、この状況に非常に危機感をもっていました。

 すると、2021年4月に発表された観察研究の中間報告におけるアビガンを服用した軽症患者の致死率が、アビガン使用者に限定しないレジストリ研究での致死率よりも極めて高いことが判明しました。さらに、国内外の複数の臨床試験でも新型コロナウイルス感染症に対する有効性の証明に失敗し、今回の国内臨床第三相試験の終了に至ったのです。

 そもそもアビガンは、その始まりからおかしなものでした。2014年3月、抗インフルエンザ薬として申請されましたが、タミフルとの比較で非劣性が示せなかったうえに、プラセボと比較した堅固な有効性の証明にも失敗しました。しかも、アビガンには催奇形性という重大なリスクがありました。しかし一般に流通はしないという承認条件のもと、新型インフルエンザに対する備蓄用として「異例の承認」が与えられたのです。

 催奇形性のある薬剤は多数ありますが、パンデミックの状況で催奇形性のリスクを説明したとしても、実際の運用は非常に難しいと考えていました。すると、新型コロナに対する使用において、投与後妊娠していた可能性のある症例があったことや、催奇形性のリスク管理のため投与対象外とされていた自宅療養者98人に使用していた事例が判明し、その危険性があらためて明らかとなりました。このようなアビガンを、新型インフルエンザ薬として承認したこと自体誤りだったのであり、すぐにでも承認を取り消し備蓄を中止すべきです。

 今回のアビガン問題では、厚生労働省と製薬企業は非常に大きな過ちを犯しました。再発防止も含め、早急に国民へ説明すべき問題だと考えます。

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