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 3月5日に「抗うつ薬で攻撃性、副作用の疑い42件、厚労省調査」との報道がありました。薬害オンブズパースン会議では、昨年5月にSSRIの衝動性亢進と性機能障害について、実態調査と注意喚起のための添付文書改訂を厚労省及びメーカーに要望しましたが、厚労省からの回答はなく、メーカーからは現状の安全性対策で充分という事務的な回答が得られただけでした。
 ところが、厚労省は、マスコミからの情報公開請求を受けて、はじめて攻撃性に関連した副作用報告の件数が無視できないレベルになっていることに気付き、重い腰を上げざるを得なくなったのです。今回明らかになった42例は、水口事務局長が報道でコメントしているように、おそらく「氷山の一角」であり、十分な調査が行われれば、SSRIと関連する攻撃性や犯罪の実態が明らかになるのではないでしょうか。
 ただ、SSRIの衝動性亢進は離脱症状との関連も指摘されており、こうした報道により自己判断で無理に薬を中止することで、攻撃的になったり病状が悪化したりすることが心配されます。昨年5月に要望書を厚労省に提出した際に記者会見も行いましたが、その場で記者の方に、「センセーショナルな報道でうつ病患者が偏見を持たれたり、勝手に服用をやめたりすることが無いように配慮して欲しい」ということも話しました。報道にもあるように、SSRIは現在100万人以上が服用しており、日本全国で100人に一人が服用している事になります。記者会見が終わって厚労省の庁舎から出るときに思ったことは、「いったいこの庁舎の中で、どのくらいの人数がSSRIを服用しながら働いているのだろう?」ということでした。ストレスの多い職業で、まじめで責任感の強い、仕事ができる優秀な人ほどうつ病になりやすいわけで、私の職場にも、知り合いにも、親戚にもSSRIを服用してる人がいっぱいいるわけです。その中には本当にSSRIによって救われたと感じている人もいるわけですし、服薬を中止したいと思ってもできない人もいるわけです。
 SSRIは衝動性亢進や性機能障害、離脱症状の他にも胎児毒性や血液凝固障害など多くの問題をかかえた医薬品であることが明らかになってきています。最近では、パキシルについて、精子のDNA断片化が報告され、性機能障害とあわせ、子供をのぞむ若い世代にとって問題の極めて大きい薬剤と考えます。SSRIの評価はうつ病という病態が充分に解明されていないこともあり、専門家でも意見が分かれるのは当然ですが、使われすぎていることは間違いないと思います。多くのうつ病が休養を充分取ることで自然治癒する病気であることも一般的には理解されていないと思われます。100年に1度の大不況という、うつ病を増やす社会的要因も加わり、11年連続で続いている自殺者が年間3万人を超える年が今後もしばらくは続くことが予想されます。自殺防止のためにはうつ病を早期に発見することが重要ですが、専門医だけでなく、簡単な問診票による診断で一般の臨床医からもうつ病と診断され、第一選択のSSRIが簡単に処方されます。いったん処方されたSSRIは効果があっても無くても依存性(離脱症状)のためなかなかやめられなくなり、SSRIの服用者は今後も増加の一途を辿ることでしょう。SSRIによって自殺者を減らそうというのですから、これはまさに「善意の陰謀」です。
 このような状況はまさに「ファルマゲドン」と呼ぶにふさわしい世界です。「ファルマゲドン」(Pharmageddon)とは、オランダに本部がある民間の医療問題研究団体HAI(ヘルス.アクション.インタナショナル)がPharma(薬、製薬会社)とArmageddon(善と悪の世界最終戦争)をあわせてつくった造語です(詳しくはホームページの2007年8月31日の注目情報を参照してください)。残念ながら、「ファルマゲドン」に対しては、映画「アルマゲドン」で地球を救ったブルース・ウイリスのようなスーパーヒーローの登場は期待できません。多くの人がこの問題に気づき、行動するしかありません。「ファルマゲドン」は地球規模で起こっているわけで、多くの人が薬害オンブズパースン会議のホームページの注目情報にアクセスしたり、ホームページの英語版を通して、薬害オンブズパースン会議の活動がグローバルに展開していくことがますます重要になってきていると思います。



「ファルマゲドン」(Pharmageddon)とは、オランダに本部がある民間の医療問題研究団体HAI(ヘルス.アクション.インタナショナル)がPharma(薬、製薬会社)とArmageddon(善と悪の世界最終戦争)をあわせてつくった造語です

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