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「抗悪性腫瘍薬の臨床評価方法に関するガイドラインの改訂」(案)への意見

1 「抗悪性腫瘍薬の臨床評価方法に関するガイドライン」とは

1991(平成3)年2月に、抗悪性腫瘍薬として開発される新医薬品の臨床的有用性を検討するための臨床試験の計画、実施、評価法等について、当時妥当と思われる方法と、その一般的手法をまとめたガイドラインが通知された。それから既に10年以上が経過し、抗体治療薬や分子標的薬などと呼ばれる薬剤が開発され、また海外の試験により有用性が認められた薬剤を早期に導入するための規制緩和が叫ばれるようになった。今回の改訂は、それらの変化に対応するためのものである。

2 取り上げた経過

海外での臨床試験により臨床的有用性が認められた薬剤として、肺癌治療に対するゲフィチニブ(イレッサ)が2002年7月に承認された。この薬剤こそ分子標的薬として副作用の極めて少ない「夢の薬」と宣伝されていた。しかし実際は違った。遅れて出された海外の臨床試験はゲフィチニブの有効性を否定するものであったにもかかわらず現在もその使用は続けられている。このような薬剤を2度と世に出さないためにも、ガイドラインの改訂は徹底して行われるべきであると考え、2005年4月1日、改訂案に対するパブリックコメント募集に応じて意見を提出した。

3 何が問題か

  1. (1) 「Ⅲ.概要」について 1. 「3)承認申請時の第Ⅲ相試験成績の提出」「延命効果を中心に評価する第Ⅲ相試験の成績を承認申請時に提出することを必須とする。」「ただし、第Ⅱ相試験終了時において高い臨床的有用性を推測させる相当の理由が認められる場合には、第Ⅲ相試験の結果を得る前に、承認申請し承認を得ることができる。」とした点について。
    これは改訂の主旨を損なうもので、全く不当であり、容認することができない。
    そもそも海外からは、日本の薬剤審査機構は特異で、ランダム化比較試験を行うだけのインフラストラクチャーの整備がなされておらず、海外の試験成績を日本人に当てはめるための研究も低調であると批判されている。この批判は妥当であり、日本で承認されている抗腫瘍剤の数は極めて多いが、海外諸国で有用性が認められて採用されたものは少なく、これらが必ずしも患者の利益につながっていないという事実について深く反省すべきである。
    特に後半のただし書きについては、今回の改訂の意義を根底から覆すものであり、「ただし」以下の文章は削除すべきである。厳密な第Ⅲ相試験をないがしろにして来たために、患者の利益を損なっている事実を深く見つめ反省すべきである。国際的なスタンダードに基づく開発こそが問われているのであり、通常の認可では第Ⅲ相試験の結果を待って承認申請するべきである。
  2. (2) 「IV.第Ⅲ相試験」について 1. 「1.目的」について 1)「何らかの有用性(プライマリーエンドポイントが同等である場合は他の特徴を含めてよい)が示される必要がある。」について。
    1. ① 「同等」という表現が極めてあいまいである。かつて日本の臨床試験では「有意の差がない」場合を「同等」とみなす誤りを犯してきたことを猛省し、V. 第Ⅱ相試験 6. 統計解析で触れているように、信頼区間の算出を義務付けるべきである。
    2. ② 「他の特徴」について具体的に例示すべきである。まず想定されるのは、毒性の少なさである。このようにエンドポイントとして国際的にも信頼されている指標を使って審査すべきである。
  3. (3) 同 2. 「3.対象患者 ②薬物療法が適応となる症例を対象とし、原則として初回治療例とする。既治療例を対象とする場合には前治療に関する一定の基準を設けること。」について。
    初回治療例を対象とする臨床試験は、第一選択薬試験(first-line treatment)と呼ばれており 、全ての第Ⅲ相試験が第一選択薬試験であるとは限らない。したがって「原則として初回治療例とする」という但し書きは全く不要である。
  4. (4) 既存の抗腫瘍剤に対する本ガイドラインの遡及効果について
    非小細胞性肺癌、胃癌、大腸癌、乳癌など罹患率の高い癌種に、現在、日本で広く使われている抗腫瘍剤については、患者の利益を考えるならば、早急に改訂ガイドラインの主眼である延命効果で再評価が行われるべきである。この点に関してガイドラインで言及することを強く要望する。

4 基本的な行動と今後の課題

パブリック・コメントは、のべ22通(430件)あり、内342件が整理され取りまとめられた。それによると、以下の対応方針が記載されている。

  1. (1) 有用な薬剤をできるだけ早く患者に提供することが今回のガイドライン改訂の一つの趣旨であることをご理解戴きたく思います。「ただし」以下の文章はこの趣旨を実現するために書かれているものです。
  2. (2) 当該部分は以下のように変更しました。「何らかの有用性(プライマリーエンドポイントが同等である場合は他の特徴を含めてよい)」を「何らかの有用性が示される必要がある。」 なお、Q&Aを作成する方向で検討中です。
  3. (3) 「原則として初回治療例とする。」を削除しました。
  4. (4) 本ガイドラインは抗悪性腫瘍薬の承認申請を目的とした臨床試験における計画、実施、評価方法等をまとめた指針であることをご理解いただきたいと思います。現在使用されている抗悪性腫瘍薬の再評価について述べたものではありません。
    項目(1)、(4)に関しては門前払いの感がある。また当方の意見が反映した(3)について理由説明が全く無い。(2)についてはガイドライン上での議論を避けたとしか言いようが無い。これらの結果から、パブリック・コメントの力は決して大きくはないが、無視できないものとなっていることが分かる。
    今後もガイドラインがどの様に運用されて行くのか厳重な監視が必要である。

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