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臨床試験登録制度と非臨床および臨床試験データの公開

1 臨床試験登録制度と非臨床および臨床試験データの公開とは

多くの患者・被験者が参加する臨床試験データは、公共の財産とも言うべきものであり、その情報は広く公開されなければならないものである。また医薬品においては薬害防止の観点からも、第三者による検証が不可欠なものである。しかし、治験(新薬の承認申請を目的として行う臨床試験)を含むこれら臨床試験においては、過去から現在に至るまで、データメイキングやデータ隠し、また有効性が示されなかった試験結果が公表されない、などの問題が指摘されてきている。このような問題に対して、現在世界的に、臨床試験登録制度の創設と臨床試験データの公開に向けた動きが始まっている。

2 採り上げた経緯

日本では、新薬の承認審査の申請資料の信頼性などを担保するために、1967年以来「原則として主な申請資料データは日本国内の学会誌などに公表する」という要件(公表要件)が義務づけられていた。しかし、この制度は1999年4月の通知により廃止された。パースン会議は、この臨床試験論文公表制度の廃止に際し、反対を強く表明してきた。また、肺癌治療剤イレッサ(一般名:ゲフィチニブ)による薬害問題に関連して、承認申請データ(非臨床および臨床試験データ)の公開を求める情報公開請求訴訟を提起するなど、一貫して非臨床および臨床試験データの公開等を求めてきた。
このような経緯の中で、2004年抗うつ剤パキシル(一般名:塩酸パロキセチン水和物)について、グラクソ・スミスクライン社による臨床試験のデータ隠し等が世界的に社会問題化した。このグラクソ・スミスクライン社の臨床試験データ隠し問題を受け、パースン会議では改めて、臨床試験登録制度と非臨床および臨床試験データ公開の問題を採り上げることとなった。

3 何が問題か

  1. (1) 抗うつ剤に関するグラクソ・スミスクライン社の臨床試験データ隠し
    2004年抗うつ剤パキシルについてグラクソ・スミスクライン社が、18歳未満の思春期・小児患者での有効性は認められず、かえって「自殺企図」のリスクが増加するとする試験成績を隠蔽したことが発覚、同年6月には、ニューヨーク州当局がグラクソ・スミスクライン社を提訴するに至り、各国において同社による臨床試験のデータ隠し等が社会問題化した。
  2. (2) 臨床試験登録制度
    1. ① 世界的な臨床試験登録制度創設の流れ
      2004年9月、JAMA、ランセットなど11誌の著名医学雑誌と医学文献データベースMEDLINEの編集者たちが、臨床試験の実施と報告の透明性を高めるために、公的ウェブサイトへの登録を求め、登録のない臨床試験成績については各誌に掲載しないという共同声明を出した。その後、主要医学雑誌のひとつであるBritish Medical Journal(BMJ)誌も、その2004年9月18日号で同様の見解を表明した。共同声明の主旨は「論文掲載を考慮する条件として、臨床試験の公的な開始前登録を要求する。登録は遅くとも被験者の受け入れ登録開始時までに行われなければならない。この方針は、2005年7月1日以降に患者登録を開始するすべての臨床試験に適用される。この時点よりも以前に開始される試験については、2005年9月13日までに登録されねばならない。」というものである。この医学雑誌編集者国際委員会による声明を受けて、世界では、以下のような臨床試験登録サイト等が創設され、運営されている。
      • ・ 米国国立医学図書館のサイト
      • ・ 米国研究製薬工業協会のサイト
      • ・ Current Controlled Trial社の登録サイト
      • ・ 英国立癌試験登録
    2. ② 日本における臨床試験登録制度の創設
      上記のような世界での臨床試験登録制度創設の動きを受けて、日本においても臨床試験登録のシステムづくりが行われ、以下のサイトが稼動している。
      • ・ 大学病院医療情報ネットワーク(UMIN)が運営するUMIN Clinical Trial Registry(UMIN-CTR):2005年7月からすべての臨床試験を対象とした、オンライン登録システムを開始
      • ・ (財)日本医薬情報センター(JAPIC):2005年7月から製薬企業が実施する治験の登録を開始
      • ・ (財)先端医療振興財団の臨床研究情報センター:2004年2月から、同センターが支援する癌に関する臨床試験を米国国立癌研究所のPDQ(Physician Data Query)に登録を開始
  3. (3) 非臨床および臨床試験データの全面公開に向けて
    上記のような臨床試験登録制度の創設により、臨床試験が開始前から登録され公開されることで、恣意的な臨床試験公表(有効性が認められなかったり、有害事象が問題となった試験結果を、公表しないなど)を防止する力が働くようになったことは、一つの進歩である。しかしそこには、まだ2つの問題が残されている。
    一つは、非臨床試験データ(動物実験データ)の非開示の問題である。医薬品の承認に関わるデータに関していえば、特に安全性情報の面においては非臨床試験データも重要な情報であるが、このデータは企業秘密の範疇にあるものとして、現在も完全に公表される状態にはなっていない。
    二つめは、臨床試験登録における登録内容(公開範囲)の問題と、試験結果の公開方法の問題である。臨床試験登録制度により、これから実施される臨床試験の概要は、医療者だけでなく一般患者さんも知ることが可能となった。ただし、臨床試験の計画書であるプロトコルそのものが公開されるわけではなく、あくまでもその概要が明らかになるだけなので、その試験を行う妥当性を第三者が検証するには、まだ不十分な情報しか公開されない、という問題が残されている。また、登録した臨床試験結果の公表方法についても、医学論文として公表しなければならないという規定はなく、どこまでの情報が公表されるかは、試験実施者に委ねられているのが現状である。

4 基本的な行動方針

パースン会議では、臨床試験登録制度の創設と登録内容の公表、および医薬品の承認審査に関わるすべての非臨床及び臨床試験データの公表制度の創設を求める要望書を、提出することになった。

5 具体的な行動

2005年3月17日に、厚生労働大臣、日本製薬工業協会に対し、以下の3点を基本的考え方とする要望書を提出した。

  1. (1) 登録制度においては、検証的試験だけでなく、探索的試験も含め、すべての臨床試験を対象とすべきである。
  2. (2) 臨床試験の被験者募集開始時点までには、試験計画書(プロトコル)が公表され、また試験計画書に変更があった場合には、変更時期も含めて変更内容が公表されるべきである。
  3. (3) 新薬として、あるいは新適応症として承認される医薬品については、すべての非臨床および臨床試験結果が、承認後速やかに、遅くとも販売開始時には公表されなければならない。

トピックス

  • 薬害オンブズパースン会議
  • タイアップグループ
2005-03-17
臨床試験登録制度に関する要望書提出

機関紙

該当する情報はありません。