調査・検討対象

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PPA

1 PPAとは

交感神経に作用する医薬品である塩酸フェニルプロパノールアミンの略称。心臓刺激や血管収縮による血圧上昇や脈圧増大、鼻・結膜充血除去等の作用がある。わが国では、一般用医薬品として鼻炎用内服剤及び鎮咳去痰用剤(せき止め、たんの除去)をはじめ、感冒用剤(かぜ薬)に配合され、医療用医薬品としては上気道炎治療剤として販売された。

2 取り上げた経緯

2000年11月3日、米国FDAは製薬企業に対し、PPAを含有する医薬品の米国内における自主的な販売中止を要請し、11月6日、一般消費者に向け注意を喚起した。このことは日本では11月7日にマスコミで報じられた。本会議では、11月18日に議題として取り上げ、検討した。

3 何が問題か

  1. (1) 米国FDAが措置を取ったのは、疫学的検討の結果から、PPAと脳出血との間には関連があると認められること、脳出血のリスクはきわめて低いものの、副作用の性格が深刻であるうえ、誰がリスクを被るか予測がつかないこと、PPAの使用に伴うこうした重大なリスクを正当化できるような使用の必要性が考えられないこと、鼻のうっ血除去には、一般用医薬品でも医療用医薬品でもPPA以外のものが利用可能であることなどを考慮したものである。
  2. (2) しかし、日本において厚生省が11月20日にとった措置は、添付文書の「使用上の注意」の改訂指示にとどまり、高血圧、心臓病、脳出血を起こしたことがある人などには使用しないよう徹底をはかる、というものであった。厚生省は、こうした措置にとどめた理由として、米国では食欲抑制剤として用いられての被害が報告されているが、日本ではそうした実態がなく、また、日本では1日最大服用量が米国より低く定められていることをあげている。
  3. (3) しかしながら、当会議では、日本でもインターネットで食欲抑制剤として販売されていることを確認した。また、米国の疫学研究データでは、脳出血を起こした27人中10人の発症前3日間のPPAの服用総量は75mg以下(最小は13mg)であり、厚生省の言うように「日本ではかぜ薬として、1日100mgまでの量で用いているから大丈夫」ということにはならないことが判明した。
    さらに、PPAには、脳出血だけでなく、交感神経刺激による心筋梗塞、脳梗塞、腸間膜動脈梗塞、腎不全(腎梗塞による)等の重大なリスクがあり、実際、心筋梗塞や脳梗塞等の報告が国内外から出されていることも判明した。
  4. (4) 以上に関連して、PPA以外の交感神経刺激剤を含有する内服かぜ薬、例えば塩酸メチルエフェドリンも同様のリスクを有している可能性があり、今後早急にその安全性を検討する必要性があると考えられた。

4 基本的な行動指針

以上から、PPAを含有する内服かぜ薬の販売中止・回収措置、ならびにPPA以外の交感神経刺激剤を含む内服かぜ薬の早急な安全確認が必要と考えられた。

5 具体的行動とその結果

2000年12月4日、上記趣旨の要望書をまとめ、当会議メンバーが厚生省安全対策課黒川課長等に厚生大臣宛要望書を手渡し、説明した。黒川課長の回の要旨は、「今回添付文書の使用上の注意改訂指示の措置をしたが、外国の動きを見て、必要ならいつでも新しい措置を取れるようにしたい。英国などは使用実態が米国と異なり販売は中止されていない。インターネットによる食欲抑制剤の販売については、監視指導課に伝えておく。」というものだった。
この要望は、12月5日付けの神奈川新聞に報じられた。同12月7日付で、同様の要望書を日本製薬団体連合会と日本大衆薬工業協会、そして日本薬剤師会宛に郵送した。これら諸団体からは、回答がなかった。
その後、厚生労働省は2002年4月に、PPAを鼻炎等の製造承認基準から削除して知事への承認権限委任を厚生労働大臣に移し、承認基準には新たに塩酸(および硫酸)プソイドエフェドリン(PSE)を追加するという方針を立て、薬事・食品衛生審議会一般用医薬品部会の審議を経て、パブリックコメントを募集した。本会もこれに応募し、意見を提出したが、厚生労働省の方針が貫かれた。
2003年8月に至り、厚生労働省は、PPA含有の医薬品をPSEに速やかに切替えるように関係企業等に指示した。その理由として、日本でも合計9人(内1人死亡、但し、服用したか不明という)の脳出血等の報告があったので、PPA含有医薬品の新たな製造を自粛し、「より安全と考えられる」PSEへの切替えるよう指示したとの説明がされた。この結果、武田薬品が「ベンザブロック」等、大正製薬が「パブロン鼻炎カプセルL」等、ファイザー社が「アネトン鼻炎カプセル持続性」の製造・販売を中止するなどの動きが相次ぎ、PPA含有医薬品は順次製造中止になった。

6 今後の課題

今後の課題として、PPA含有医薬品以外の内服かぜ薬の安全性確保の問題や、「かぜ症候群」の治療と予防の基本についての解明と啓発が必要である。