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医学研究に関する不正行為

1 医学研究に関する不正行為とは

科学研究の世界では常に、データを公正に取り扱うこと(ねつ造や改ざん等がないこと)、アイデアや論文の盗用をしないこと等が求められるが、実際にはさまざまな不正行為が報告されている。医学研究においても過去にはいくつかの不正行為が発覚しており、特に臨床研究における不正の非倫理性は、それがヒトを対象とした試験であるからのみならず、得られた結果がいわゆる"医学的エビデンス"として実際の医療内容に反映されることが多いため、多数の患者に影響を与え、薬害につながる危険性も高い非常に重大なことがらである。

2 取り上げた経緯

当会議では2013年から東邦大学・藤井善隆准教授の論文ねつ造報道や獨協医科大学・服部良之教授の論文不正報道などをきっかけに、これらの研究不正の再発防止策について提言を行ってきた。そうした中で、ノバルティスファーマ株式会社(ノ社)が製造販売する高血圧治療薬(降圧剤)ディオバン(一般名バルサルタン)をめぐっての医師主導型臨床試験の不正があいついで発覚した。5つの大学病院で行われた臨床試験の統計解析責任者とされていた人物がノ社の社員であったことが明らかになったり、このうち京都府立医大と滋賀医大、慈恵医大、千葉大では結論をディオバンにとって有利に導こうとするデータの操作がなされていたことも判明した。当会議でも、薬害防止の観点からこの事件の問題点の解明と再発防止策について、関係諸機関が果たすべき役割を指摘する必要があると考えた。

3 何が問題なのか

医学研究における不正は、臨床試験に参加した患者の人権を侵害するだけでなく、得られた結果が、誤った「エビデンス」を導き出し、誤った「診療ガイドライン等」の作成につながる恐れがあり、特定の医薬品の売り上げを伸ばしたり、減らしたりといった形で医療の在り方に悪影響を与え、ひいては薬害につながる恐れがある。ところが我が国においては、医薬品の承認審査に関わるいわゆる「治験」についてのみ薬事法の法規制がかかっているが、それ以外のいわゆる「医師主導型臨床試験」等については、法規制が存在しない。文部科学省や厚生労働省が、単独あるいは合同で、研究倫理指針等のガイドラインを公表しているが、これらにはいずれも法的拘束力がないため、ガイドライン施行後も違反事例が絶えず、さらに違反が発覚しても刑事罰や医師免許取り消しのような厳しい制裁が行われることもないのが現状である。

4 具体的な行動

前年度には2013年2月26日付の「医学研究における不正行為に関する要望書」を厚生労働大臣、文部科学大臣、日本医学会会長、日本学術会議会長あてに提出したが、今年度はディオバン事件の発覚など事態の深刻化を受けて、2013年9月11日付で「ディオバン事件に関する意見書」を公表、2013年11月1日には、当会議が、ノ社を薬事法違反及び不正競争防止法違反で刑事告発する告発状を東京地方検察庁に提出した。
またこの問題をめぐって厚労省がノ社を告発した直後の2014年1月10日には「監督官庁である厚労省が告発に踏み切った意義は大きく、虚偽誇大広告の再発防止にとっても意味があるが、厚労省はもっと早い時期に薬事法に基づく立ち入り調査を行ったうえで告発に踏み切るべきであった。また臨床研究不正に対して、事実関係の解明を捜査機関に委ねざるを得ないこと、また薬事法の広告規制違反としてしか刑事責任を問うことができないことは現行法の不備である」とのコメントを公表した。

5 行動の結果と今後の課題

ディオバン事件はその後、元製薬会社社員が逮捕・起訴され、公判中である。公判を通じて研究不正の詳細な実態と、企業と研究者の癒着の実態が明らかになることが期待されるが、元社員個人の刑事責任だけに問題が矮小化される可能性もある。
海外では、研究不正に対して刑事罰を含む厳しい対応をとっているところもあり、また製薬企業の不正な宣伝、販売に対しては高額な罰金や制裁金を科しているところも多い。
それに比べ我が国では医学研究における不正が発覚しても、厳しい制裁や効果的な再発防止策がほとんどとられない現状を変え、強制力を持った調査ができ、結果によっては厳しい行政処分を行う制度を早急に作る必要がある。
具体的には、治験に限らずすべてのヒトを対象とした臨床試験に法的規制をかけること、米国のORI(研究公正局)にあたる監視教育組織の設立や、研究不正を行った関係者への厳しい制裁措置を行う仕組みをつくることなどを実現するなどが考えられ、早急な制度改革が求められる。

トピックス

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