調査・検討対象

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抗うつ剤パキシル錠の児童・青年を対象とした臨床試験

1 パキシル錠の児童・青年を対象とした臨床試験とはとは

パキシル錠の児童・青年を対象とした臨床試験とは、正式名称を「パキシル錠の児童・青年期大うつ病性障害に対する有効性および安全性の臨床評価−プラセボを対照とした二重盲検並行群間比較試験−」といい、パキシル錠の製造元であるグラクソ・スミスクライン(以下GSK)社が行っている製造販売後の臨床試験であり、2009年3月から開始され日本だけで実施されている。なお本試験は、7〜17歳の大うつ病性障害と診断された児童・青年において、パキシル錠(塩酸パロキセチン10 mgまたは20 mg)の効果をプラセボ対照で検証することを目的としている。

2 取り上げた経緯

当会議は、抗うつ剤パキシルを含む選択的セロトニン再取り込み阻害剤 (Selective Serotonin Reuptake Inhibitor:SSRI)による有害作用(自殺、攻撃性などの衝動性亢進、退薬症候群と依存性、性機能障害、胎児毒性など)に関する問題に取り組んできた。その経過において、英国でSSRIの問題に取り組んでいたアンドリュー・ヘルクスマイヤー(医師)、デービッド・ヒーリー(精神科医)らから、小児を対象としたパキシルの臨床試験が日本で実施されていることに対する問題提起があり、当会議としてはパキシル錠の危険性のみならず、小児を対象とした臨床試験を実施することの必要性、妥当性、安全性について検討することとした。

3 何が問題か

パキシル錠は、2002年から2003年にかけて自殺企図などの問題が話題となって英国では18歳未満について一旦使用禁忌となり、2003年には米国でも同様の措置がとられた。このような欧米規制当局の対応を受け、日本においても18歳未満の大うつ病性障害患者に対して使用禁忌の措置がとられた。その後、自殺に関連した危険性は抗うつ剤全般における問題であるとして、欧米、日本ともに18歳未満使用禁忌という措置は解除されたものの、パキシル錠での安全性が確認されているわけではない。
一方、児童・青年期の大うつ病性障害に対するパキシル錠の効果については、すでに欧米で複数のプラセボ(偽薬)対照臨床試験が行われ、いずれの試験でも有効性は確認されていない。また小児期のうつ病については、そもそも疾患概念が確立しているのか、正しく診断できるのかという問題点も指摘されている。このような現状において本試験は2010年6月現在、日本国内の34医療機関が参加して実施されている。
小児を対象とした臨床試験では、成人以上にその安全性や倫理性の確保が重要となる。海外の臨床試験において有効性が確認されなかったうえに、自殺に関するリスクが増加する可能性などが示唆されている薬剤について、日本の小児を対象とした臨床試験を実施する必要性と妥当性はあるのか。この臨床試験の実施を妥当とした国および製薬企業は、その判断根拠を国民に向けて明らかにする責任があるとともに、臨床試験に関する十分な情報開示をして、本試験の妥当性や安全性が公開の場で再検討されるべきである。

4 基本的な行動方針

本臨床試験を実施しているGSK社と実施を妥当と判断した国に対して、その判断根拠の提示を求めるとともに、試験計画書の詳細と実施状況に関する情報の開示を求める。

5 具体的行動

2009年7月16日、GSK社及び厚生労働大臣に対し、「抗うつ剤パキシル錠の児童・青年を対象とした製造販売後臨床試験に関する情報の公開を求める要望書」を提出した。
また、試験参加施設として特定できた1施設に対し、要望書提出の報告とともに要望書を送付した。

6 今後の課題

要望書に対するGSK社からの回答(2009年9月30日付)を受領したが、臨床試験実施の必要性、妥当性については「臨床現場から効果が認められたという声があった。学会からも使用できるようにしてほしいという要望がある。」という説明がなされたのみであり、基礎的医学研究や症例研究、観察研究など、ランダム化試験の実施根拠となるべき過去研究の蓄積については言及されなかった。また回答書では「プロトコル概要」がweb上に公開されていることをもって試験計画書について情報提供しているとしていた。
今後も、試験計画書詳細、被験者リクルートの現状(試験参加施設名と各施設におけるリクルート人数、被験者用説明文書)、報告されている有害事象に関する情報(発現例数、個別症例の臨床経過等)などについて公開を求めていくとともに、被験者となった小児の安全性が確保されているのかについても監視していく必要がある。

機関紙

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