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 2020年12月10日、薬害オンブズパースン会議は、「被験薬のヒト初回投与試験における日本初の死亡事故(エーザイ・墨田病院事件)に関する要望書」を厚生労働大臣宛に提出しました。

 エーザイ・墨田病院事件とは、エーザイの開発した抗てんかん薬候補物質の国内第I相試験が墨田病院(東京都墨田区所在の一般臨床を行わない治験専業病院)で実施されたところ、20歳代の健康な日本人男性が、被験薬投与完了から5日目の2019年6月25日に電柱から飛び降り、脳挫傷を負って死亡した痛ましい事故のことです。

 ヒト初回投与試験中での被験者死亡は国内で過去に例がなく、世界でもきわめて稀な重大事故です。厚労省の指示で行われた医薬品医療機器総合機構(PMDA)による調査結果では、中枢神経系に作用する薬剤の治験であるのに、治験責任医師や治験分担医師に精神科・神経内科等を専門とする医師が含まれていなかったことや、エーザイ製の類薬(商品名フィコンパ)では投与中止後の中枢神経症状(離脱徴候)に注意が必要とされていたのに、この治験では反復投与終了の際に投与量を漸減するといった配慮が加えられていなかったことが判明しています。それどころか、用いられた同意説明文書には、類薬で自殺企図例が存在する等の情報が記載されておらず、中枢神経系の薬剤には一般に自殺念慮のリスクがあるという情報も文書での説明が行われていませんでした。本件に、医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令(GCP省令)の被験者保護規定からの重大な逸脱が認められることは明らかです。

 しかし、PMDAの調査結果では、「全般的な治験実施体制等にGCP省令からの重大な逸脱に該当する所見は認めない」とされ、厚労省もこの誤った評価を追認したままです。厚労省とPMDAが、製薬企業からの独立性や中立性を欠いていることは明らかです。

 そこで当会議は、今回の要望書によって、厚労大臣に対し、GCP省令からの重大な逸脱は認めないとした誤りを訂正するとともに、公正な再調査を実施して、根本原因分析に基づく正しい総括を行うことを要望しました。

 現在まで再調査は行われていませんが、折しも2020年9月には、医薬品等行政評価・監視委員会が発足し、第三者性をもった薬事行政の監視の実施が期待されています。GCP省令の被験者保護規定を空文化させないためにも、エーザイ・墨田病院事件をこのまま風化させてはなりません。

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