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ディオバン事件に関し、ノバルティスファーマ社を刑事告発

2013-11-01

薬害オンブズパースン会議は、2013年11月1日、ディオバン事件に関し、ノバルティスファーマ株式会社を薬事法違反及び不正競争防止法違反をもって刑事告発する告発状を、東京地方検察庁に提出しました。

<告発状より抜粋>

被告発会社の下記告発事実記載の各所為は、
薬事法第90条2号、第85条4号、第66条1項 誇大広告等の禁止違反
不正競争防止法第22条1項、第21条2項5号 不正競争
に該当すると思料されるので、厳正な捜査を遂げた上、被告発会社を処罰されるよう告発する(刑事訴訟法第239条1項)。

  告 発 事 実
   
被告発会社ノバルティスファーマ株式会社は、高血圧治療薬(降圧剤)であるディオバン(一般名バルサルタン)を製造販売する製薬企業であるが、被告発会社は、京都府立医科大学が実施したディオバンと他の既存降圧剤の効果を比較した臨床研究であるKYOTO HEART Studyの研究論文において、不正なデータ操作が行われ、ディオバンが既存降圧剤と比べて脳卒中や狭心症などの心血管イベントを抑制する効果があるとする同研究論文の結論は真正ではないにもかかわらず、

1 2011年1月発行の日経メディカルにおいて、
(1)「試験の対象は、JIKEI HEART Studyが心不全や冠動脈疾患などの心血管疾患を伴う高血圧、KYOTO HEART Studyはハイリスク高血圧という違いがありましたが、一次エンドポイント(心血管事故及び心血管死の複合ポイント:脳卒中・TIA、心筋梗塞、心不全及び狭心症による入院など)の相対リスクは両試験とも有意に減少しました」(疎1、151頁堀内)
(2)「両試験とも脳卒中、狭心症がバルサルタン群で有意に減少しましたね。」(疎1、151頁光山)

2 2011年6月発行の株式会社メディカルレビュー社が発行する「高血圧ナビゲータ 第3版」において、
(1)「KYOTO HEART Studyで、バルサルタンは日本人の心血管イベントを有意に減少させることが示されています。」(疎2、299〜300頁小室)
(2)「(KYOTO HEART Studyでは)一次評価項目である脳・心・腎イベントはバルサルタン群で相対的に45%、有意(P<0.0001)に減少していました。内訳をみると、狭心症はJIKEI HEART Study同様、やはりバルサルタン群で有意に減少しています(相対リスク減少率49%:P=0.01058)。脳卒中も、KYOTO HEART StudyではCTないしMRIで病巣の存在を確認しているのですが、JIKEI HEART Study 同様、バルサルタン群で有意に減少していました(相対リスク減少率:45%、P=0.01488)。」(疎2、300〜301頁熊谷)

等、KYOTO HEART Studyの研究論文の結果を引用した医師による対談を利用して記事を提供し、もってディオバンの治療効果について虚偽又は誇大な記事を広告し、記述し、又は流布したものである。

また、上記のように、KYOTO HEART Studyの研究論文の結果を引用した医師による対談を利用して記事を提供し、商品の広告にその商品の品質、内容について誤認させるような虚偽の表示をしたものである。

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  告発の意義

ディオバンに関する臨床試験不正ならびにその結果を広告宣伝に使用した被告発会社の行為は、適正な臨床試験が行われるものと信じて同試験に参加した被験者の人権を侵害するとともに、他の既存降圧剤に勝る心血管イベント抑制効果があるとの宣伝を信じて本薬を使用したすべての医療者・患者の権利を侵害するものである。また我が国における臨床試験の信頼性を揺るがす重大事案である。
このため徹底した事実関係の検証と、これに基づく再発防止策の策定が急務とされ、臨床試験が実施された各大学には調査委員会が設置されて報告書が公表され、厚生労働省には「高血圧症治療薬の臨床研究事案に関する検討委員会」が設置され、本年10月8日には中間とりまとめ(疎7)が公表された。
 
しかしながら、上記のいずれの調査も、法的強制力のない任意調査であるゆえに事実関係の解明はいぜん不十分なままである。

例えば、肝心の臨床試験データ操作をいつ誰がどのような意図で行ったのかという点について、被告発会社の社員である白橋の関与が強く疑われるものの、被告発会社は「同人が関与した証拠もなく、会社として社員にデータ操作を指示した形跡はない」と主張し、「大学側研究者にはデータ管理・統計解析業務の十分な知識経験がなかった」「最終解析データを作成するに至る段階で何らかの操作が行われたことが疑われ、白橋がデータ解析を行った証拠資料も存在する」とする大学側とは言い分が食い違ったままである。

また、そもそもこの臨床試験の計画に、被告発会社がどの程度組織的に関与していたのか、さらに当該臨床試験結果を広告宣伝に利用するにあたって、誰がその決定をし、その時点で、被告発会社が、その信頼性を含め当該臨床試験の内容をどの程度知っていたかなどの点については、まったく未解明である。このような状況では、同種事案の再発防止をはかることは到底不可能といわざるを得ない。

医薬品の販売においては、本件のように医師の対談記事や医学研究の紹介等の学術情報の提供を装った広告形態が広く利用されているところであるが、これを可能にしているのは産学の不健全な利益相反関係である。そうした関係を背景に行われた臨床試験の不正行為にかかわる違法な宣伝活動に関する本件告発は、単に医薬品の宣伝活動のあり方だけではなく、産学の関係や臨床試験のあり方についても問題を提起するものである。

被告発会社によれば関係論文のプロモーション資材としての使用は推計495種類に及ぶ。本件告発を端緒に薬事法違反及び不正競争防止法違反に関する徹底した捜査を遂げてディオバン事件の真相が解明され、さらに責任を明確にすることを通じて、我が国の医薬品販売の適正化、ひいては国民が適正な医療を受ける権利の保障につながることを願って本告発に及ぶ次第である。

関連資料・リンク等