FOIAは,一般市民が危険で無効な薬剤についての情報を入手するのを支援する上で特に役立って来ました.米国で販売承認された薬剤についてもっと知りたいと思っている医師,患者,ジャーナリスト,監視団体は,FOIAのお蔭でその薬剤についての多数の情報源を利用することができます.医薬品の安全性の監視に専念しているパブリック・シチズンの一部門であるヘルスリサーチ・グループは,非常に頻繁にFOIAを利用してきており,薬剤の安全性と有効性を監視するのに必要な情報の入手に成功しています.
承認薬剤に関する情報を捜す最初の場所はFDAウェブサイトです.1996年,議会はインターネットを通じて政府情報にもっと広範囲にアクセスできるよう,FOIAを改正しました.1996年電子情報自由法改正として知られ,略してE−FOIAとも言われるその改正法は,行政機関が過去にFOIAのもとで開示請求された資料や,現在開示請求されている資料,または,今後もその可能性のあるすべての記録をウェブサイト上に掲示し,電子図書室(electronic
reading rooms)に保管することを求めています.結果として,最もポピュラーで頻繁に開示請求された記録はFOIA申請書提出の必要無しに一般市民が入手できることになります.例えば,一般市民はバイアグラやプロザックなどのポピュラーな薬剤についての情報を頻繁に要求するため,FDAはそのウェブサイトにこれらの薬剤の認可資料一式を掲示しており,インターネットにアクセスする人はだれでも入手できます.
電子情報自由法改正で便利になったことは,行政機関が保持している記録を確認し,記述するためのインデックスの提供を行政機関に要求できることです.FOIA請求者は,行政機関が保持するどの記録が彼らの疑問に対する答えを含んでいるかを調べるためのインデックスを利用できます.そのインデックスは資料請求のプロセスを能率的にしました.インデックスのおかげで,一般市民は捜している情報を含む資料についてターゲットを絞ることができ,無関係な記録を捜しコピーする無駄な時間を減らせるようになったのです.
残念ながら,全ての行政機関がFDAのように積極的に電子情報自由法改正に従っているわけではありません.市民は7つの政府行政機関に対していま訴訟を起こしています.その中には,司法部門,国務部門,教育部門が含まれており,これらの行政機関がE−FOIAのインデックス化要求に違反しているとの理由で訴えたのです〔Public
Citizen v. Lew, No.97-2891(D.D.C.1997)〕.これらの行政機関は彼らが保持している情報のリストを掲示していなかったため,どの部局にFOIA申請書を提出すべきか,あるいはまた,捜している情報が存在するのかどうかさえも一般市民には知るすべがなかったからです.この訴訟はワシントンD.C.の地方裁判所で現在係争中であり,その結論はまだ出されていませんが,提訴したおかげで,全ての行政機関が現在保持している情報の完全なインデックスを作成し始めるように政府を動機づける結果を生み出しました.
FDAウェブサイトは販売承認を受けた薬剤について知る上では有用な情報源ですが,不完全です.FDAウェブサイト上に公表された新薬申請の情報やFDA新薬審査に関する情報は,かなりの部分が削除されていたり,一部は全く掲示されていないこともあります.1例として,バイアグラの試験に関するグラフを持ってきたので,OHP(オーバーヘッドプロジェクター)で示したいと思います(図1).FDAはバイアグラに関するこれらの図とその他の情報をウェブサイト上に掲示しましたが,ごらんのように,臨床試験の結果は削除されています(訳注:グラフの座標軸は示されているが,肝心のデータは完全に欠落した表示になっている).パブリック・シチズンのヘルスリサーチ・グループはバイアグラが一部のユーザーで副作用を生じさせるかもしれないと懸念しており,FOIAを用いてこれらの試験結果の公表を求めています.
情報がFDAのウェブサイトに無い場合は,行政機関にFOIA申請書を提出することが必要です.FOIA申請書には,捜している資料がどれであるかを特定して請求しなければなりません.申請が行われると,FDAはそれから20日(business
day)以内に諾否の決定をしなければなりません.FDAが返答できない場合,請求者は訴訟を起こすことができます.代わりに,FDAがその請求を拒んだ場合は,請求者はその拒否に対して不服申し立てをし,さらに20日間(business
day)待った上で訴訟を起こさなければなりません.このプロセスは裁判所が関与する前に,承諾・拒否のいずれを選ぶか,FDAが考慮する機会を与えているわけです.
FDAがある薬剤についての情報を求められて,それを拒否する場合――例えば,私が今OHPでお見せしたバイアグラのグラフのような,削除した情報を開示するように求めた場合――これを拒む理由としてあげられるのは通常FOIAの適用除外事由(b)(4)であり,これが「営業秘密と秘密に属する商業上の情報」に対する公衆のアクセスを阻むものです.「営業秘密」は狭義には‘商品製造に適用される計画,製法,工程,器具などの商業的価値のある秘密事項’であり,‘革新的製品または高度の努力を要する製品’に関するものと定義されています〔Public
Citizen Health Research Group v. FDA, 704F.2d1280, 1288(D.C.Cir.1983)〕.
“秘密に属する商業上の情報”は,もし開示されると,情報提供者にとって競争上の実質的損害となるかもしれない情報であると定義されています〔National
Parks & Conservation Ass'n v. Morton,498F.2d 765(D.C.Cir.1974)〕.開示請求が適用除外事由(b)(4)にあたるかどうかを決定するに際して,FDAは,新薬申請時にFDAに提出した情報の開示が競争上の実質的損害をもたらすかどうかを製薬会社に尋ねます.製薬会社は通常,新薬申請での多くの情報が秘密に属する商業上の情報であると主張します.FOIA請求者がその情報を得るためにFDAに対して訴訟を起こす場合,その製薬会社は殆どいつも開示に反対するために訴訟に参加することになります.事実,その製薬会社がそのケースに関して,自分の利益のために参加して法廷で争わないのであれば,FDAは適用除外事由(b)(4)に基づくクレームを製薬会社が放棄したものと見なし,請求のあった情報を開示します.
“営業秘密”は薬剤製法以外には適用されないことは明らかですが,“秘密に属する商業上の情報”には何が含まれるかについてはまだ意見の大きな食い違いがあります.製薬会社とFDAは,安全性と有効性データを含む新薬申請の多量の情報が“秘密に属する商業上の情報”と判断されると主張します.しかし,パブリック・シチズンはこれとは強く意見を異にしており,薬剤の安全性と有効性に関係するデータは適用除外事由(b)(4)にいう非開示には該当しないと主張して,多数のケースについて訴訟を起こしてきました.
例えば,パブリック・シチズンはSearle製薬会社に対して現在訴訟を起こしており,Searle社は,セレブレックス(最近認可された薬剤)に関する試験結果,この薬剤の臨床試験を実施した全研究者名,薬剤についての未発表論文の題名を開示しないように求めています.Searle社は,その情報が開示されると,競合企業がその臨床研究者を雇い,競争薬剤の開発に優位な立場を得るかもしれないと主張しています.これに対し,パブリック・シチズンは,臨床研究者名が通常秘密に属する情報ではないことを述べています.事実,その臨床研究者は頻繁に論文を発表しており,その中ではSearle社のための研究について考察しているのですから,研究者の氏名は“秘密に属する商業上の情報”とは見なされません.加えて,パブリック・シチズンの論点としては,求めている研究結果がセレブレックスと異なった製法の薬剤には適用できないのだから,競合企業にとって価値の無いものであろうと主張しています.もう一つの例として,数年前に判決のあったケースを紹介します.この訴訟で,パブリック・シチズンはメトフォルミンを試験するのに用いた臨床プロトコールの開示を求めました.FDAとBristol-Meyers
Squib社(薬剤の製薬会社)の双方は,そのプロトコールが秘密に属する商業上の情報であるとして,非開示を主張しました.もし開示されれば,Bristol-Meyers
Squibの競合企業は,そのプロトコールを自社薬剤の開発に利用するだろうというのが彼らの議論でした.パブリック・シチズンは,そのプロトコールが何ら通常のものとかわらず,独自のものでもないことを指摘し,したがって競合企業に利するものではないと反論しました.そして最終的には,裁判所も私たちの意見に同意したのです.
FOIAは開示を原則としています.従って,FOIAの除外事由を理由に情報を非開示とする場合には,その証明責任はFDAと製薬会社にあります.FDAと製薬企業が,開示は競争上の損害を生じるのだと一般化し,きめつけるような主張を行っても,それは通りません.彼らはなぜ情報開示を競争上の不利と考えるのかを具体的に説明しなければいけません.FDAと製薬会社は情報を非開示にしたことについて説明するために,通常は,従業員からの宣誓供述書を提供します.これらのケースの大部分で,FDAと製薬会社はヴォーン・インデックス(Vaughn
index)というものを準備しなければなりません.これは非開示情報の概要と政府がこれを非開示とした理論的根拠を示すものです.私はセレブレックスについての情報非開示を弁護するためにSearle製薬会社が準備したヴォーン・インデックスの中から,一ページだけを日本語に訳して持ってきました(次ページ表1).ご覧になってお分かりのように,各非開示資料の内容はかなり詳細に記述されており,Searle社は,各情報ごとに非開示を正当化するための理由を挙げています.
FOIAそれ自体は,そのようなインデックスを準備することを各行政機関や利害関係グループに要求していません.しかし,パブリック・シチズンがVaughn
v. Rosenケースにおいてそのようなインデックスを求めて論争し,これを権利として獲得した1974年以来,行政機関にはそのようなインデックスの作成が求められるようになりました.非開示情報とその理由について記述しているこれらのインデックスがなければ,訴訟当事者がFOIA適用除外を主張する行政機関に反論することは非常に困難ですし,裁判所も非開示が正当であるかどうかの判断を下すことが難しいはずです.
裁判所は,当該情報の開示が製薬会社の競争上の地位に損害を与えるかどうかを判断するに必要な科学的知識を持っていないため,しばしば適用除外事由(b)(4)に該当するかどうか判断することが困難なことがあります.一部の裁判官はそれらの判断を専門家に依頼します.そのようなケースでは,裁判官はFOIA請求者と製薬会社の双方が受け入れられる専門家を選び,なぜ開示が製薬会社に競争上の実質的損害を生じさせるか,又はさせないかの理由を裁判官に説明する報告書を準備させます.パブリック・シチズンが,そのような訴訟に関わったことは先に簡単にのべましたが,同ケースでBristol-Meyers
Squib社は,メトフォルミンを試験するのに用いた臨床プロトコールを開示することで損害を被るだろうということを主張しました.パブリック・シチズンとBristol-Meyers
Squib社によって承認された専門家は,情報開示がBristol-Meyers Squib社の競争上の地位に損害を与えないであろうと結論し,結果として,裁判官はその情報を開示するように命じました.
FOIAの主要な利点の一つは,適用除外に該当しない情報は全て開示することを行政機関に要求していることです.従って,新薬申請に関する情報の一部がFOIAの適用除外に該当する場合であっても,残りの情報は全て開示しなければなりません.すでに説明したように,行政機関は情報の多くのページを開示することを逃れるために簡単に適用除外を主張することはできません.逆に,各削除の事由を説明するヴォーン・インデックスを提出しなければなりません.しばしば,行政機関は,適用除外情報と同一資料中にある適用除外に該当しない部分(=本来なら開示しなければならない部分)の情報までも削除してしまうという誤りを犯します.裁判官は,行政機関が適用除外でない情報を分離して開示していないと感じた場合,行政機関に資料を見直すよう指示し,不適切に秘匿された情報を開示するように命令します.適用除外情報とその他の情報が混在している場合でも,多くの有用な情報が開示されるため,このように部分開示の決定が行われるということはFOIAのもつ重要な側面のひとつです.今日私は,分離前のFDAによって削除された文書と,適用除外情報だけが分離され開示された後の文書のコピーを持ってきました(図2).ご覧のように,はじめは非開示とされていた情報のうち,かなりの量の情報が開示されました.
これまで,FDAの販売承認をうけた薬剤について,それらの情報に関心をもつ人々が,どのようにして情報を入手できるかを説明してきました.現在試験中で,まだ販売承認が下りていない薬剤についての情報を集めるのはさらに難しいことです.ヘルスリサーチ・グループなどの監視グループは,ある特定の薬の安全性や有効性に問題ありと考えられる場合,承認前の薬剤についても,承認反対のロビー活動が行えるよう,あらかじめ薬剤情報にアクセスを求めています.さらにまた,ヘルスリサーチ・グループは,薬の臨床試験に参加する被験者の保護を強化するため,その薬の安全性に関わる情報の入手にも関心を抱いています.
FDAによってまだ認可されていない薬剤についての情報を得ることは,FOIAの広範な開示条項下においても難しいことです.それは,一般の人々が,承認前に新薬申請の情報にアクセスすることを拒否する規則をFDAが公布したからです.事実,FDAの規則は,新薬申請書が正式に提出されたという事実そのものを秘密にすることを要求しています.しかし,このようなFDAの規則はFOIAに抵触します.FOIAは9項目の除外事由を狭く定めており,そのどれかに該当すると認められない限り開示が義務づけられているからです.理論上から言えば,行政機関の規則はこれと相反する法律(FOIA)の規定には劣り,アクセスを否定しているFDAの規則よりもFOIAの方が優先されなければなりません.しかし実際は,未承認薬剤に関する全情報を守秘することがFDAの公的方針となっているかぎりは,これらの薬剤についての情報を入手することは困難です.
最近パブリック・シチズンは,承認審査中の薬剤の情報に対するアクセスという点に関して大きな前進を致しました.今年1月,パブリック・シチズンは連邦諮問委員会法(FACA)のもとで,FDAを相手に訴訟を起こしました.FDAはFACAに基づいて諮問委員会を開き,外部の医学専門家から成るこの委員会で,申請された新薬の安全性と有効性について評価し,薬剤を認可すべきかどうかについて勧告します.これらの会議は一般の人々にも公開されており,彼らは討議にも参加する機会を与えられています.諮問委員会メンバーには,製薬会社から提出された新薬申請資料,およびその薬に関するFDAのレビューと評価資料などの中から抜粋した資料が提供されます.委員会のメンバーは,これらの情報の助けを受けて,当該薬の安全性と有効性を討議し,販売承認の勧告を行うかどうかの決定をします.FACAは諮問委員会メンバーに配られるこれらの資料を,一般の人々にも渡すように求めていますが,これまでFDAの慣行としては一般の人々がこれら諮問委員会資料にアクセスすることを拒んでいたのです.
FDAは,私たちが訴訟を起こした後,審議会の開催前又は開催時にこれらの資料を一般の人々にも提供することに同意したのです.この合意は2000年1月に実施されますが,新しく入手できる情報は諮問委員会に参加を望む全ての人々にとって非常に有益なものになるであろうと私たちは期待しています. |