米国の連邦情報自由法(FOIA)
――― 33年間の経験から得た教訓―――

The United States Freedom of Information Act

-Lessons learned from thirty-three years of experience with the law-
アマンダ・フロスト*

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T.緒言
 

 今日は米国の連邦情報自由法,あるいはその利用者がFOIAと呼んでいる法律のことについてお話しさせて頂きます.また,私たちがこの法律との33年間にわたる経験から学んだ教訓についてもご紹介したいと思います.私の話の中心は,一般市民がFOIAを利用することによって,市販の医薬品・医療器具の安全性と有効性に関する情報をどのように入手することができたかという点に向けたいと思いますが,おそらくこの点に関しては薬害オンブズパースンの皆様方も特別の関心をお持ちだろうと思います.しかし,そのまえに先ず,パブリック・シチズン(Public Citizen)とFOIAクリアリングハウスに関する多少のバックグラウンド情報をご説明することにします.

 私は,1972年ラルフ・ネーダーとアラン・モリソンによって共同設立されたパブリック・シチズン訴訟グループ(10人の弁護士からなる公共の利益のためのグループ)に所属する弁護士です.このグループは,非営利消費者支援団体であるパブリック・シチズン(会員総数約150,000人)の一部門であり,設立時から,主に政府の秘密性と闘うことに努力を費やしてきました.

 私も,ラルフ・ネーダーによって始められた企画――FOIAクリアリングハウスの責任者として,訴訟グループの事務所を活動の場として働いている者です.1972年以来,このクリアリングハウスは,行政機関が保持している情報を入手したいと思っている個人,公益団体,報道関係者に対して技術的及び法律的援助を行っています.過去27年間にわたって,パブリック・シチズン訴訟グループとFOIAクリアリングハウスは,FOIAおよびその他の開かれた政府をめざす諸法のもとで,政府保持情報に対する一般市民のアクセスを強める努力を行ってきました.たとえば,訴訟を通じて,また,市民の情報入手を支援・教育できるようなノウハウの普及活動を通じて,そして議会や行政へのロビー活動を通して強化してきたのです.永年,政府情報入手のための支援を行ってきた中で,私たちは,FOIAが政府の活動について一般市民に情報を知らせるための有効で有用な手段に発展してきているのを見てきました.

 
U.FOIAの概観
   1966年のFOIA制定以来,学者,ジャーナリスト,一般市民を含む多数の米国人が,このFOIAを利用して政府の活動を監視し,その行動に対するアカウンタビリティー(説明責務)を求めてきました.政府情報を入手する権利を一般市民に賦与することによって,FOIAは,米国市民が政府の活動について知り,一般討論により効果的に参加することを可能にしてきました.これは,強力で活気のある民主主義を育てる上では不可欠の条件です.政府の活動が国民の目から覆い隠されているような国はそれ自体民主主義と呼ぶことはできません.

 FOIAは,その制定以来33年を経て米国の生活そのものに浸透してきました.私たちのグループのような市民擁護団体は,重篤な医薬品副作用,廃棄場所で認められる危険な化学物質,原子力発電所の事故と災害の重大な悪影響について知るためにFOIAを殆ど毎日利用しています.健康や安全問題について組織活動・ロビー活動を展開し,政府の監視役としての役目を果たすわれわれの努力は結局のところ政府情報にどれだけアクセスできるかによって決まるのです.
 
V.FOIAとFDA
 

 FOIAは,一般市民が危険で無効な薬剤についての情報を入手するのを支援する上で特に役立って来ました.米国で販売承認された薬剤についてもっと知りたいと思っている医師,患者,ジャーナリスト,監視団体は,FOIAのお蔭でその薬剤についての多数の情報源を利用することができます.医薬品の安全性の監視に専念しているパブリック・シチズンの一部門であるヘルスリサーチ・グループは,非常に頻繁にFOIAを利用してきており,薬剤の安全性と有効性を監視するのに必要な情報の入手に成功しています.

 承認薬剤に関する情報を捜す最初の場所はFDAウェブサイトです.1996年,議会はインターネットを通じて政府情報にもっと広範囲にアクセスできるよう,FOIAを改正しました.1996年電子情報自由法改正として知られ,略してE−FOIAとも言われるその改正法は,行政機関が過去にFOIAのもとで開示請求された資料や,現在開示請求されている資料,または,今後もその可能性のあるすべての記録をウェブサイト上に掲示し,電子図書室(electronic reading rooms)に保管することを求めています.結果として,最もポピュラーで頻繁に開示請求された記録はFOIA申請書提出の必要無しに一般市民が入手できることになります.例えば,一般市民はバイアグラやプロザックなどのポピュラーな薬剤についての情報を頻繁に要求するため,FDAはそのウェブサイトにこれらの薬剤の認可資料一式を掲示しており,インターネットにアクセスする人はだれでも入手できます.

 電子情報自由法改正で便利になったことは,行政機関が保持している記録を確認し,記述するためのインデックスの提供を行政機関に要求できることです.FOIA請求者は,行政機関が保持するどの記録が彼らの疑問に対する答えを含んでいるかを調べるためのインデックスを利用できます.そのインデックスは資料請求のプロセスを能率的にしました.インデックスのおかげで,一般市民は捜している情報を含む資料についてターゲットを絞ることができ,無関係な記録を捜しコピーする無駄な時間を減らせるようになったのです.

 残念ながら,全ての行政機関がFDAのように積極的に電子情報自由法改正に従っているわけではありません.市民は7つの政府行政機関に対していま訴訟を起こしています.その中には,司法部門,国務部門,教育部門が含まれており,これらの行政機関がE−FOIAのインデックス化要求に違反しているとの理由で訴えたのです〔Public Citizen v. Lew, No.97-2891(D.D.C.1997)〕.これらの行政機関は彼らが保持している情報のリストを掲示していなかったため,どの部局にFOIA申請書を提出すべきか,あるいはまた,捜している情報が存在するのかどうかさえも一般市民には知るすべがなかったからです.この訴訟はワシントンD.C.の地方裁判所で現在係争中であり,その結論はまだ出されていませんが,提訴したおかげで,全ての行政機関が現在保持している情報の完全なインデックスを作成し始めるように政府を動機づける結果を生み出しました.

 FDAウェブサイトは販売承認を受けた薬剤について知る上では有用な情報源ですが,不完全です.FDAウェブサイト上に公表された新薬申請の情報やFDA新薬審査に関する情報は,かなりの部分が削除されていたり,一部は全く掲示されていないこともあります.1例として,バイアグラの試験に関するグラフを持ってきたので,OHP(オーバーヘッドプロジェクター)で示したいと思います(図1).FDAはバイアグラに関するこれらの図とその他の情報をウェブサイト上に掲示しましたが,ごらんのように,臨床試験の結果は削除されています(訳注:グラフの座標軸は示されているが,肝心のデータは完全に欠落した表示になっている).パブリック・シチズンのヘルスリサーチ・グループはバイアグラが一部のユーザーで副作用を生じさせるかもしれないと懸念しており,FOIAを用いてこれらの試験結果の公表を求めています.

 情報がFDAのウェブサイトに無い場合は,行政機関にFOIA申請書を提出することが必要です.FOIA申請書には,捜している資料がどれであるかを特定して請求しなければなりません.申請が行われると,FDAはそれから20日(business day)以内に諾否の決定をしなければなりません.FDAが返答できない場合,請求者は訴訟を起こすことができます.代わりに,FDAがその請求を拒んだ場合は,請求者はその拒否に対して不服申し立てをし,さらに20日間(business day)待った上で訴訟を起こさなければなりません.このプロセスは裁判所が関与する前に,承諾・拒否のいずれを選ぶか,FDAが考慮する機会を与えているわけです.

 FDAがある薬剤についての情報を求められて,それを拒否する場合――例えば,私が今OHPでお見せしたバイアグラのグラフのような,削除した情報を開示するように求めた場合――これを拒む理由としてあげられるのは通常FOIAの適用除外事由(b)(4)であり,これが「営業秘密と秘密に属する商業上の情報」に対する公衆のアクセスを阻むものです.「営業秘密」は狭義には‘商品製造に適用される計画,製法,工程,器具などの商業的価値のある秘密事項’であり,‘革新的製品または高度の努力を要する製品’に関するものと定義されています〔Public Citizen Health Research Group v. FDA, 704F.2d1280, 1288(D.C.Cir.1983)〕. “秘密に属する商業上の情報”は,もし開示されると,情報提供者にとって競争上の実質的損害となるかもしれない情報であると定義されています〔National Parks & Conservation Ass'n v. Morton,498F.2d 765(D.C.Cir.1974)〕.開示請求が適用除外事由(b)(4)にあたるかどうかを決定するに際して,FDAは,新薬申請時にFDAに提出した情報の開示が競争上の実質的損害をもたらすかどうかを製薬会社に尋ねます.製薬会社は通常,新薬申請での多くの情報が秘密に属する商業上の情報であると主張します.FOIA請求者がその情報を得るためにFDAに対して訴訟を起こす場合,その製薬会社は殆どいつも開示に反対するために訴訟に参加することになります.事実,その製薬会社がそのケースに関して,自分の利益のために参加して法廷で争わないのであれば,FDAは適用除外事由(b)(4)に基づくクレームを製薬会社が放棄したものと見なし,請求のあった情報を開示します.

 “営業秘密”は薬剤製法以外には適用されないことは明らかですが,“秘密に属する商業上の情報”には何が含まれるかについてはまだ意見の大きな食い違いがあります.製薬会社とFDAは,安全性と有効性データを含む新薬申請の多量の情報が“秘密に属する商業上の情報”と判断されると主張します.しかし,パブリック・シチズンはこれとは強く意見を異にしており,薬剤の安全性と有効性に関係するデータは適用除外事由(b)(4)にいう非開示には該当しないと主張して,多数のケースについて訴訟を起こしてきました.

 例えば,パブリック・シチズンはSearle製薬会社に対して現在訴訟を起こしており,Searle社は,セレブレックス(最近認可された薬剤)に関する試験結果,この薬剤の臨床試験を実施した全研究者名,薬剤についての未発表論文の題名を開示しないように求めています.Searle社は,その情報が開示されると,競合企業がその臨床研究者を雇い,競争薬剤の開発に優位な立場を得るかもしれないと主張しています.これに対し,パブリック・シチズンは,臨床研究者名が通常秘密に属する情報ではないことを述べています.事実,その臨床研究者は頻繁に論文を発表しており,その中ではSearle社のための研究について考察しているのですから,研究者の氏名は“秘密に属する商業上の情報”とは見なされません.加えて,パブリック・シチズンの論点としては,求めている研究結果がセレブレックスと異なった製法の薬剤には適用できないのだから,競合企業にとって価値の無いものであろうと主張しています.もう一つの例として,数年前に判決のあったケースを紹介します.この訴訟で,パブリック・シチズンはメトフォルミンを試験するのに用いた臨床プロトコールの開示を求めました.FDAとBristol-Meyers Squib社(薬剤の製薬会社)の双方は,そのプロトコールが秘密に属する商業上の情報であるとして,非開示を主張しました.もし開示されれば,Bristol-Meyers Squibの競合企業は,そのプロトコールを自社薬剤の開発に利用するだろうというのが彼らの議論でした.パブリック・シチズンは,そのプロトコールが何ら通常のものとかわらず,独自のものでもないことを指摘し,したがって競合企業に利するものではないと反論しました.そして最終的には,裁判所も私たちの意見に同意したのです.

FOIAは開示を原則としています.従って,FOIAの除外事由を理由に情報を非開示とする場合には,その証明責任はFDAと製薬会社にあります.FDAと製薬企業が,開示は競争上の損害を生じるのだと一般化し,きめつけるような主張を行っても,それは通りません.彼らはなぜ情報開示を競争上の不利と考えるのかを具体的に説明しなければいけません.FDAと製薬会社は情報を非開示にしたことについて説明するために,通常は,従業員からの宣誓供述書を提供します.これらのケースの大部分で,FDAと製薬会社はヴォーン・インデックス(Vaughn index)というものを準備しなければなりません.これは非開示情報の概要と政府がこれを非開示とした理論的根拠を示すものです.私はセレブレックスについての情報非開示を弁護するためにSearle製薬会社が準備したヴォーン・インデックスの中から,一ページだけを日本語に訳して持ってきました(次ページ表1).ご覧になってお分かりのように,各非開示資料の内容はかなり詳細に記述されており,Searle社は,各情報ごとに非開示を正当化するための理由を挙げています.

 FOIAそれ自体は,そのようなインデックスを準備することを各行政機関や利害関係グループに要求していません.しかし,パブリック・シチズンがVaughn v. Rosenケースにおいてそのようなインデックスを求めて論争し,これを権利として獲得した1974年以来,行政機関にはそのようなインデックスの作成が求められるようになりました.非開示情報とその理由について記述しているこれらのインデックスがなければ,訴訟当事者がFOIA適用除外を主張する行政機関に反論することは非常に困難ですし,裁判所も非開示が正当であるかどうかの判断を下すことが難しいはずです.

 裁判所は,当該情報の開示が製薬会社の競争上の地位に損害を与えるかどうかを判断するに必要な科学的知識を持っていないため,しばしば適用除外事由(b)(4)に該当するかどうか判断することが困難なことがあります.一部の裁判官はそれらの判断を専門家に依頼します.そのようなケースでは,裁判官はFOIA請求者と製薬会社の双方が受け入れられる専門家を選び,なぜ開示が製薬会社に競争上の実質的損害を生じさせるか,又はさせないかの理由を裁判官に説明する報告書を準備させます.パブリック・シチズンが,そのような訴訟に関わったことは先に簡単にのべましたが,同ケースでBristol-Meyers Squib社は,メトフォルミンを試験するのに用いた臨床プロトコールを開示することで損害を被るだろうということを主張しました.パブリック・シチズンとBristol-Meyers Squib社によって承認された専門家は,情報開示がBristol-Meyers Squib社の競争上の地位に損害を与えないであろうと結論し,結果として,裁判官はその情報を開示するように命じました.

 FOIAの主要な利点の一つは,適用除外に該当しない情報は全て開示することを行政機関に要求していることです.従って,新薬申請に関する情報の一部がFOIAの適用除外に該当する場合であっても,残りの情報は全て開示しなければなりません.すでに説明したように,行政機関は情報の多くのページを開示することを逃れるために簡単に適用除外を主張することはできません.逆に,各削除の事由を説明するヴォーン・インデックスを提出しなければなりません.しばしば,行政機関は,適用除外情報と同一資料中にある適用除外に該当しない部分(=本来なら開示しなければならない部分)の情報までも削除してしまうという誤りを犯します.裁判官は,行政機関が適用除外でない情報を分離して開示していないと感じた場合,行政機関に資料を見直すよう指示し,不適切に秘匿された情報を開示するように命令します.適用除外情報とその他の情報が混在している場合でも,多くの有用な情報が開示されるため,このように部分開示の決定が行われるということはFOIAのもつ重要な側面のひとつです.今日私は,分離前のFDAによって削除された文書と,適用除外情報だけが分離され開示された後の文書のコピーを持ってきました(図2).ご覧のように,はじめは非開示とされていた情報のうち,かなりの量の情報が開示されました.

 これまで,FDAの販売承認をうけた薬剤について,それらの情報に関心をもつ人々が,どのようにして情報を入手できるかを説明してきました.現在試験中で,まだ販売承認が下りていない薬剤についての情報を集めるのはさらに難しいことです.ヘルスリサーチ・グループなどの監視グループは,ある特定の薬の安全性や有効性に問題ありと考えられる場合,承認前の薬剤についても,承認反対のロビー活動が行えるよう,あらかじめ薬剤情報にアクセスを求めています.さらにまた,ヘルスリサーチ・グループは,薬の臨床試験に参加する被験者の保護を強化するため,その薬の安全性に関わる情報の入手にも関心を抱いています.

 FDAによってまだ認可されていない薬剤についての情報を得ることは,FOIAの広範な開示条項下においても難しいことです.それは,一般の人々が,承認前に新薬申請の情報にアクセスすることを拒否する規則をFDAが公布したからです.事実,FDAの規則は,新薬申請書が正式に提出されたという事実そのものを秘密にすることを要求しています.しかし,このようなFDAの規則はFOIAに抵触します.FOIAは9項目の除外事由を狭く定めており,そのどれかに該当すると認められない限り開示が義務づけられているからです.理論上から言えば,行政機関の規則はこれと相反する法律(FOIA)の規定には劣り,アクセスを否定しているFDAの規則よりもFOIAの方が優先されなければなりません.しかし実際は,未承認薬剤に関する全情報を守秘することがFDAの公的方針となっているかぎりは,これらの薬剤についての情報を入手することは困難です.

 最近パブリック・シチズンは,承認審査中の薬剤の情報に対するアクセスという点に関して大きな前進を致しました.今年1月,パブリック・シチズンは連邦諮問委員会法(FACA)のもとで,FDAを相手に訴訟を起こしました.FDAはFACAに基づいて諮問委員会を開き,外部の医学専門家から成るこの委員会で,申請された新薬の安全性と有効性について評価し,薬剤を認可すべきかどうかについて勧告します.これらの会議は一般の人々にも公開されており,彼らは討議にも参加する機会を与えられています.諮問委員会メンバーには,製薬会社から提出された新薬申請資料,およびその薬に関するFDAのレビューと評価資料などの中から抜粋した資料が提供されます.委員会のメンバーは,これらの情報の助けを受けて,当該薬の安全性と有効性を討議し,販売承認の勧告を行うかどうかの決定をします.FACAは諮問委員会メンバーに配られるこれらの資料を,一般の人々にも渡すように求めていますが,これまでFDAの慣行としては一般の人々がこれら諮問委員会資料にアクセスすることを拒んでいたのです.

 FDAは,私たちが訴訟を起こした後,審議会の開催前又は開催時にこれらの資料を一般の人々にも提供することに同意したのです.この合意は2000年1月に実施されますが,新しく入手できる情報は諮問委員会に参加を望む全ての人々にとって非常に有益なものになるであろうと私たちは期待しています.

 
W.FOIAのもうひとつの利点:政府の業務改善とアカウンタビリティー
 

 FOIAは情報にアクセスをするための手段としてだけではなく,政府活動を明かにする方法としても価値があります.開放性を増すことは政府活動の一般理解を高め,政府が批判に応えたり,その活動を正当化する上でも役立ちます.それは科学的情報の自由な交換を可能にし,経済成長を促進する発見の奨励にもなります.加えて,過去の十分な理解を可能にすることによって,政府の過去の行動に関する問題を解決することを容易にし,将来の準備をする前に,過去に行ったことから教訓を得る機会を提供します.最も重要なことは,政府の一般市民に対するアカウンタビリティーを維持する上でFOIAが役立っているということです.

 米国では,行政行政機関は絶えず増え続けるさまざまな法律に目を配り,市民生活の全領域にわたって影響するような規制を行っています.議会や大統領とは異なり,行政行政機関の役人は一般市民によって選出されるものではありません.結果として,行政行政機関は時折一般市民の利益が何であるか忘れてしまい,特に規制対象が行政機関の政策立案者に勝る影響力を持つ場合にその傾向は強く表れます.FOIAは行政機関が一般市民に対して責任があることを保証するという重要な目的を担っているのです.FDAのような行政行政機関は,一般市民が行政機関の仕事ぶりを監視するために,FOIAその他の開かれた政府をめざす諸法を利用できるのだと知っただけでも,その業務を改善するものであると私は考えます.

パブリック・シチズン・ヘルスリサーチ・グループは,しばしばFDAの活動を監視する方法としてFOIAを利用しています.例えば,1993年,臨床試験の一部としてフィアフルリジンを投与された多数の対象者が非可逆的な肝臓障害を発症し,5人の死者を出した事件で,ヘルスリサーチ・グループは,FDAによる前臨床及び臨床試験の監視の実態に驚かされました.この悲劇をきっかけに,ヘルスリサーチ・グループは薬の臨床試験に参加する人々の安全性を保証するFDAの方法を見直す必要があると動き出しました.ヘルスリサーチ・グループは,FDAがヒトのボランティアを対象とした薬の治験を認可するには,わずか2週間の動物実験を行うだけでよいのだということを発見したのです.そこでパブリック・シチズンは,ヒトで試験を行ったけれども健康と安全性に関する懸念のために,その後の開発を断念した薬剤に関する全ての安全性・有効性情報の開示を求めて,FOIAの申請書を提出しました.このFOIA請求から得られた情報を用いて,パブリック・シチズンは臨床試験に関するFDAの監視を強化するようロビー活動を行い成功を収めたのです.

 
X.FOIAの弱点
 

 FOIAは政府情報に対する公衆のアクセスを拡大するという点で全般的成功を収めましたが,同時に,この法律には弱点もあります.先ず,第一は遅延の問題です.FOIAのもとでは,行政機関は20日(business day)以内に請求者に諾否の決定をするように求められています.残念ながら,これらの制限はしばしば破られており,例えば,最悪の違反者である連邦調査局はFOIA申請を処理するのに2年から10年かかっています.請求者から聞かれる最も多い苦情は回答の遅れです.私の希望的観測では,電子情報自由法改正と継続的な議会の監視がFOIA処理を速め,将来遅延をかなり減少させるものと考えています.

 2番目の問題は,1996年改正法で議会によって言及されなかったことですが,行政機関が適用除外事由本来の目的を越えて秘密の範囲を拡大するために曖昧な用語の使用や拡大解釈を行ってきたという事実です.残念ながら,時々,裁判所は政府の拡大解釈や非開示の決定を支持してきました.例えば,私たちの事務所や政府情報への広範なアクセスをサポートする人々にとって,かなりの損失となったのは1992年Critical Mass Energy Project対NRC訴訟の判決でした.Critical Massにおいて,私たちはスリーマイル島での事故後原子力産業によって設立された非営利団体によって原子力調整委員会に提出された原子力発電所についての分析的安全性報告書へのアクセスを求めてきました.その報告書は産業界内部には広く配布されましたが,一般市民はなかなか入手できませんでした.原子力産業界は報告書がFOIAの適用除外事由(b)(4)に当たる“秘密に属する商業上の情報”を構成すると主張しました.

 Critical Massでは,@任意に提供された情報と,A規則によって,または,政府の利益のために提供が義務づけられた情報とを,裁判所は区別しています.情報提出が義務づけられている場合は,その情報を開示することがその会社に相当の競争上の損害を生じるものでない限り,公衆に開示されます.しかしCritical Massによれば,情報が任意に提供された場合,それが慣例的には公開されていない情報である旨を提供者が示すことができれば,政府はその情報を非開示にすることができることになっています.実際上は,このCritical Massによって,任意の形で情報を提供した会社はどんな情報でも非開示にすることができるわけです.結局,会社は開示が競争上の損害とならない場合であっても,製品に悪い印象を与える情報や困った情報は慣例的に開示しないように見受けられます.事実,これらはCritical Mass訴訟で問題とされた資料と同じ種類のものでした.原子力産業界はCritical Massでは問題の情報すべてにアクセスしていました.従って,他の全ての競争会社がその情報を目にしているのですから,それを開示することが競争上の地位に損害を生じるという議論はできなかったのです.原子力産業界は,原子力発電の操業中に起こった問題の詳細な報告を一般の人々がチェックすることによって悪いことが知れ渡るのを恐れたからこそ,情報の開示を阻止しようと躍起になっていたのです.

 Critical Massの判決はきわめて広範囲に影響を及ぼす恐れがあります.なぜなら,行政機関には情報の提供を義務づける権限があるにも拘わらず,行政機関とと産業界が共謀して情報の任意提供に同意することにより,一般市民への情報開示をしないことが可能だからです.これは,召喚力を持つ法執行行政機関に提出される産業界の情報に対して一般市民が関心をもつ場合には,特に懸念されます.

 私たちが請求している産業界からの提供情報は,その多くが提供を義務づけられたものであり,従って,任意提供に付与される広範な保護には該当しないため,パブリック・シチズンの調査・キャンペーン活動がCritical Mass基準によって悪影響をうけることは,当初恐れたほどではありませんでした.例えば,私たちの組織は医薬品や医療器具についてFDAに提出された安全性及び有効性のデータを捜すため,あるいは,連邦ハイウエイ交通安全局へ自動車産業界から提供された情報を得るためにしばしばFOIAを適用しています.このデータは我が国の規則による広範な報告制度に基づいて提出を求められているもので,Critical Mass判決には該当しないため,会社が相当な競争上の害があることを示さない限りは開示されます.従って,議会及び健康・安全に関わる国の行政行政機関によって規制される重要な報告義務のお蔭で,Critical Mass が一般市民の情報アクセスに及ぼす悪影響はある程度緩和されています.このような報告制度の整っていない社会では,Critical Mass基準の影響はもっと大きな危険性をはらんでいます.

 FOIAに関するもうひとつの問題点は,行政機関が躊躇して,FOIAの開示原則に従うのを避ける傾向があったということです.FDAは,医薬品の情報を得るのをいつでも容易にしてくれるとは限りません.ひとつには,FOIAのこととなると,FDAは自分が規制すべき会社にリードを委ねる傾向があるということです.新薬や新医療器具の申請を行った会社が,その情報はFOIA適用除外事由(b)(4)に当たると考えた場合,FDAは,製薬会社の立場をほとんど常に支持します.たとえそれが,会社の方が訴訟参加して開示に反対している場合であっても,FDAは,その情報を非開示とすべきであると主張する摘要書を提出します.FOIAはこれらの論争において,FDAに製薬会社側を支持することを求めてはいませんし,少なくともFDAは中立的位置にあって,製薬企業が開示反対の訴訟を起こすのを単に黙認するという立場をとることもできるはずなのですが,製薬会社を支持してきました.

 FOIAに関わる訴訟で,裁判官が決定をFDAに委ねるとは思われませんが,行政機関が訴訟に参加することはしばしば情報開示には否定的な向きの影響を裁判官に与えます.これは特に適用除外事由(b)(4)に関する判断においては当てはまることです.開示が競争上の実質的損害を生じないかどうかを判断するためには,薬の治験や認可手続きに関する知識が必要ですが,裁判官はときに自分にはそのような知識がないと感じることがあり,そのような場面では,こうしたことが起こるからです.前にも述べたとおり,一部の裁判官は適用除外事由(b)(4)に関して,外部の専門家の助言に依存する例もみられるようになりました.こうした試みは一般市民が必要な情報を得ることができ,しかも製薬会社の財政的安定を脅かすこともないため,パブリック・シチズンはこれを支援したいと考えています.

 
Y.結論
   結論として,FOIAはアメリカにおける一般市民の情報へのアクセスを根底から変えました.しかし,同時に,私たちは,FOIA適用のプロセスを改善し,市民の政府記録へのアクセスをもっと容易にし,政府の秘密体質を少なくするために,もっと努力する必要があります.そして,ここ日本では,私たちの経験から学び,成功した点は採り入れ,アメリカの法律の弱点は改善して頂きたいと思います.皆様方が,政府の行動を市民の前にさらし,それをみんなで監視して行こうという努力を始められたことに祝福を送りたいと思います.

 
【用語解説】

クリティカル・マス判決

   クリティカル・マス(Critical Mass Energy Project)は1974年に設立されたネーダー・グループに属する反原発市民団体.アメリカの原子力工業団体が原子力規制委員会(NRC)に任意提供した情報に関して,クリティカル・マスは,FOIAに基づき,その情報の開示を求めた(1984年).NRCは例のスリーマイル島の原子力事故の後,安全性と信頼性を促す目的で設立された非営利団体であり,原子力分野の監督・規制に関与する団体なので,法令上は資料の提出を義務づけることもできたはずだが,問題の資料は原子力工業団体の同意なしには,他者に開示しないという条件つきで提出されたものであった.「当該情報が任意に提出されたものであって,情報提供者がそれまで慣行としては公衆に公開してこなかった情報は,FOIAによる開示の適用除外対象である」との判断を下したクリティカル・マス判決は,その後の情報開示を求める市民運動にも大きな影響を与えている.この講演の中でも指摘されているように,行政機関が情報提出を強制できる場面でも業界と示しあわせて,これを任意提供情報として提出させ,非開示にすることで一般市民からの情報へのアクセスを阻むおそれは十分にある.
   

翻訳に際し、法的用語のチェックについて、奈良産業大学法学部の天野淑子助教授にご協力をいただきました。


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