調査・検討対象

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治験のあり方検討会と被験者保護法

1 被験者保護法とは

被験者保護法とは、 生きている人、遺伝子や胚などの人体要素を含み、社会学・行動科学など分野を限らず、すべての人を対象とする科学研究において、研究対象者の保護と研究の公正さの確保をはかることを目的とする法律である。

2 取り上げた経緯

被験者保護法を取り上げた経緯は、厚生労働省が設置した「治験のあり方検討会」の進行と密接に関連する。
「治験のあり方検討会」は、「治験の信頼性を確保しつつ、円滑に治験を実施するために必要な方策について検討を行うことを目的とする」としているが、主たる検討課題を、医師主導治験実施における関係者の実務上の負担軽減と国内未承認薬の使用について、治験制度を活用することにより保険診療との併用が可能な体制を確立するための環境整備においた。
当会議では、治験に関連して、2002年10月に「サリドマイドに関する緊急要望書」、2004年12月「サリドマイドの輸入・使用実態把握のための体制整備を求める要望書」を提出、また、NPO法人医薬ビジランスセンター(JIP)及び医薬品・治療研究会(TIP)とともに「臨床試験登録制度の創設と、医薬品の承認審査に関わる非臨床及び臨床試験データの公表を求める要望書」を提出するなど、治験の問題について関心をもって活動を重ねてきた。
本検討会についても、傍聴を重ねていたが、本来あるべき研究対象者の保護という視点での議論を置き去りにしたまま議事が進行し ていたため、意見書を提出することとした。

3 何が問題か

  1. (1) 現在、世界は医薬品の臨床試験の登録・公開を義務化する方向へ向かっている。
    EU加盟25か国では、EU臨床試験指令により、承認外医薬製造物の臨床使用から市販後の自主臨床試験まで「臨床試験」の範囲に含め、計画概要をEU共通のデータベースに登録し、当局の許可と倫理委員会の承認を得ない限り開始できない制度となった。
    フランスの被験者保護法では、薬剤の臨床試験に限らず、研究についてのデータベースを設けるものとされ、患者団体等の請求に応じて一部開示される。
    アメリカでは、1961年のサリドマイド事件を受けての薬事法改正により、承認外医薬製造物の使用も市販後の自主臨床試験も、相当にリスクの少ないものでない限り、研究計画に対するFDAの許可と施設ごとのIRBの承認を得ないと開始できない制度とされた。医薬品・医療機器等FDAの管轄する物質を用いない研究は、国家研究法に基づく被験者保護の行政規則によって管理される。その上で、1997年のFDA近代化法で生命を脅かす疾患の臨床試験の情報は登録・公開が義務付けられた。さらに2005年より、すべての臨床試験の登録・公開を義務付ける法案が国会で審議されている。
  2. (2) 日本だけが、新薬承認申請目的の「治験」という狭い領域に限定した法的規制に留まり、承認された医薬品等の審査資料概要の公開が義務づけられるのみである。
  3. (3) このため既承認薬剤を研究用製造物として適応外に応用する場合や実験的手術方法など、研究者による臨床研究の多くが行政当局の管理もされずに実施され、かつ、そのデータが偏りなく集積・公表されることがない。このため、患者が常に危険な状態に置かれるのみならず、データに基づくリスクとベネフィットの公正な外部評価が不可能である。

4 基本的な行動方針

治験のあり方検討会の問題点のうち、同検討会に最も欠落している基本的な問題点を指摘する趣旨で、被験者保護法の制定の必要性を強く打ち出した意見書を同検討会に提出する。

5 具体的な行動と、その結果

2005年7月14日、厚生労働大臣、治験のあり方に関する検討会、未承認薬使用問題検討会議、先進医療専門家会議に対し、「被験者保護法の制定と、人を対象とするすべての研究を法に基づいて管理・監視する制度の確立を求める意見書」を提出した。意見書では、「治験」はもとより、すべての「人を対象とする研究」を被験者保護法に基づいて管理・監視する包括的な制度の確立が優先して検討されるべきことを強く主張した。
また、「先進医療専門家会議」では、実験的な(有効性も安全性も未確立の)手術方法などについて、「高度先進医療」として保険診療と保険外診療の併用を可能にする新たな様式が決定されたことの問題点、「未承認薬使用問題検討会議」では、「追加的治験」「安全性確認試験」といった不可思議な治験の定義が提示されているが、これについても、被験者保護法制の中で管理されるべきこと等について意見を表明した。
なお、治験のあり方検討会は、07年9月に最終報告書をまとめ提出している。

6 今後の課題

現在、厚生労働省が設置した「ハンセン病再発防止検討会」において、被験者保護法を含めた患者の権利法が議論されており注目したい。被験者保護法制定の必要性についてさらに各方面に働きかけていくことが必要である。

トピックス

  • 薬害オンブズパースン会議
  • タイアップグループ
2005-07-14
治験のあり方に関する意見書提出

機関紙

該当する情報はありません。