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ビデオ「教えて!クスリン」

1 ビデオ「教えて!クスリン」とは?

ビデオ「教えて!クスリン」は、日本製薬工業協会が企画制作し、山崎幹夫千葉大学名誉教授が監修し、財団法人日本学校保健会が推薦し、全国2000の小学校に無料配布されている小学校高学年向け教材ビデオです。

2 取り上げた経緯

ビデオの存在を知り、入手して閲覧したところ、教材用としては見過ごすことのできない問題があると思われたので取り上げました。

3 何が問題か

  1. (1) 薬の必要性は?
    ビデオでは「熱がある、風邪だ、薬を飲む」というつながりが当然のことのようにえがかれています。しかし、ビデオでは旅行は発熱の次の週という設定ですから、保温保湿し体を休めていればおそらく旅行までには風邪は治っていることが多いのではないでしょうか。そもそも、病気になったら薬を飲み、なにがなんでも予定どおりコトを進めるという大人の悪しき風潮を、子どもが真似ることはありません。体調のすぐれないときは休むことが許される社会であってほしいものです。
    ビデオのパッケージには、自然治癒力では十分でないときに手助けをしてくれるのが薬である旨の記載が確かにありますし、風邪の治療などは「体を休めることが大切」という適切な指摘もあります。しかし、結果的には、ビデオ全体としてその点は非常に弱く、せいぜい薬を飲んだ上で体を休める程度の意味にしかうけとれません。パッケージには、病気は自然治癒力と薬の作用がともに発揮されたとき最も効果的に治すことができる旨の記載もあります。薬を飲まずにゆっくり休養をとって治した子どもを登場させ、「なーんだ、薬を飲まなくても風邪は治るんだね」と言う場面でも挿入されれば、自然治癒力を子どもに教えることができるのではないでしょうか。
  2. (2) 発熱は悪?
    ビデオでは、発熱が体の防衛反応として果たしている役割については説明されていません。ビデオをみた小学生は、熱を悪者とし、体に少しでも異常があればすぐ薬という短絡的な発想をもちかねません。子どもが「どうして熱がでるの」ときくのに応じて、発熱の仕組みを教える場面がほしいものです。
  3. (3) 危険性の検討は?
    ビデオでは薬の副作用を狭い意味に解しているようにみうけられます。薬の作用は本来両刃の剣であり、効能の裏側には危険があることをシーンに取り入れたなら、副作用についてもっと理解できるようになるでしょう。薬の危険性は具体的に教えるべきです。
    アンプル風邪薬事件では1959年以降1965年までに38人が死亡しました(厚生省調査)。塩酸フェニルプロパノールアミン(PPA)含有の風邪薬は脳内出血のリスクを増やすので(日本では回収されませんでしたが)アメリカでは回収されました。解熱剤として広く使用されてきたメフェナム酸(商品名「ポンタール」等)とジクロフェナクナトリウム(商品名「ボルタレン」等)とライ症候群、インフルエンザ脳炎・脳症との関連性が疑われています。重篤で時に致死的なスティーブンス・ジョンソン症候群の例もあります。具体例には事欠きません。
  4. (4) 注射神話!
    クイズで、早く効くのは「飲み薬」か「注射」かという問題設定は必ずしも適切とは言えません。また、正解は「注射」となっていましたが、正確性を欠きます。静脈内投与は確かに速く効きますが、筋肉内投与より経口の方が速く効くこともあるからです。
    この設定ですと「早く効く薬で早く治したい」子どもは、痛くても注射の方を希望することになりかねません。小学生に注射神話をうえつけることはさけたいものです。
    かつて筋拘縮症事件の時、注射が大問題になり、日本小児科学会筋拘縮症委員会は昭和51年2月19日「経口投与で十分ならば注射すべきでないこと」「いわゆる“カゼ症候群"に対して注射は極力さけること」などを提言しました。
    注射は基本的には自然治癒力の発揮を待たずに行う非常手段であることを教えるべきでしょう。
  5. (5) 薬だけ?
    ビデオでは結核による死亡が薬のおかげで激減したような図が示されましたが、日本のデータでは、ストレプトマイシンやパス(PAS パラアミノサリチル酸)の登場以前から死亡率は低下し始めており、環境衛生や栄養改善の貢献も考慮すべき原因であり、正確な説明ではありません。薬の効果について過大な印象を与えかねません。
  6. (6) 教材ビデオ
    「教えて!クスリン」は、無料配布されていますが薬好きの子どもたちを作る宣伝ビデオではなく、教材ビデオとして小学校で使用されるものなのでしょう。教材ビデオである以上は、科学的な事実の裏付けが必要で、科学的事実と矛盾するものであってはならない筈です。発熱の仕組み、自然治癒力、そして薬は自然治癒力で十分でないときに手助けをするものであること、自然治癒力との関係で薬を必要としない場合もあることなどの科学的事実が分かるものでなければなりません。
    また、科学的事実である薬の危険性を無視することはできず、薬が人体に重大な害を及ぼした実例を具体例をもって教えるべきでしょう。

4 基本的な行動指針

「教えて!クスリン」を科学的事実に裏付けられた教材ビデオへ改訂するよう求める。

5 行動

2001年5月17日、日本製薬工業協会、千葉大学名誉教授山崎幹夫氏、財団法人日本学校保健会、厚生労働省、文部科学省、日本薬剤師会、及び日本学校薬剤師会宛に「教材ビデオ『教えて!クスリン』に望まれること」という書面を送りました。

トピックス

  • 薬害オンブズパースン会議
  • タイアップグループ
2001-05-17
意見書「教材ビデオ『教えて!クスリン』に望まれること」提出

機関紙

該当する情報はありません。