調査・検討対象

  1. ホーム
  2. 調査・検討対象

イダマイシン

1 イダマイシンとは

一般名 塩酸イダルビシン
商品名 イダマイシン
会社名 ファルマシア・アップジョン社(2003年にファイザー社に吸収合併)
適応 急性骨髄性白血病(慢性骨髄性白血病の急性転化を含む)

2 取り上げた経緯

企業関係者からの情報提供があり、調べていくうちに、1995年6月の発売から2年間で副作用によると見られる死亡者が約30人にのぼり、臨床試験でも156人中20人の死亡が報告されていること、厚生省が投与患者全員の症例調査と添付文書の改訂を指示したことなどが、1997年10月20日厚生省により発表されたのを踏まえてメンバーから問題提起。

3 何が問題か

  1. (1) 安全性
    適応が白血病という一般的には予後不良な疾患であるから、それによる死亡はやむを得ない面があるが、その"治療"薬により死亡のリスクを高めたり、早期死亡を招くことは避けなければならない。
  2. (2) 治験報告のあり方
    治験報告で死亡例がごく一部しか記載されていない。

4 基本的な行動指針

  1. (1) ITT(Intention to treat, 治験の対象にしようとした全症例での解析)の考え方に従い、治験報告には、治験の対象にしようとした全症例の経過がわかるように記載すること
  2. (2) 特に治験中の死亡例については、「まず、死亡の事実を記載し、しかる後に治験物との因果関係の判断を加え、『因果関係が否定できない』場合はそのように記載する」こと
    以上の原則の徹底を求める。

5 どう行動したか

  1. (1) 質問書の提出
    1. ① ファルマシア・アップジョン株式会社に対して
      • 98/2/2「塩酸イダルビシン(イダマイシン)に関するお尋ね」
      • 98/3/31「塩酸イダルビシンに関する意見・再質問・情報開示請求」
      • 98/6/24「塩酸イダルビシンに関する再質問に対する貴社の御回答について」
    2. ② 治験担当医師(Idarubicin 研究会世話人:小川一誠医師)に対して
      • 98/6/24「臨床試験中の死亡例についての治験報告への記載についてのお伺い」
    3. ③ 厚生省医薬安全局に対して
      • 98/7/9「臨床試験中の死亡例についての治験報告及び添付文書への記載と、添付文書の記載に対する厚生省の責任範囲についてのお伺い」
  2. (2) 第19回日本臨床薬理学会にイダルビシンに関する演題をパースンメンバーが提出。

6 結果

  1. (1) 企業とは3度にわたり文書で質問・意見交換
  2. (2) 厚生省は、口頭でのみ回答
  3. (3) 研究会世話人小川一誠医師は、回答と面談を拒否
  4. (4) 学会報告は当日(98年11月21日)の毎日新聞一面に大きく報道された。

7 判明した事実

  1. (1) 治験で156人中20人が死亡していたが、担当医師は本剤の副作用による死亡とは判断せず、治験報告には、5人について「本剤投与後早期に死亡したため薬剤の有効性の評価が不能であった」として解析除外症例として記載し、残る15人については、死亡していた事実すら記載されなかった。
  2. (2) 本剤の承認申請の過程で、企業は血液腫瘍専門家の判断を仰ぎ、臨床検査値の推移等から本剤との因果関係を完全には否定できないと判断し、早期死亡の20人を厚生省に報告した。但し、添付文書の「警告」欄には「臨床試験において本剤に関連したと考えられる早期死亡例が認められている」と記載されたのみで具体的な死亡数には触れられていない。
  3. (3) 市販後約5千人に使用し、内30人に本剤との因果関係が否定しきれない死亡が見られたと中央薬事審議会副作用調査会で評価され、添付文書改訂等の措置となった。

8 問題点と今後の課題

  1. (1) 治験報告書のあり方
    治験報告で死亡例が記載されていないことが問題である。
    この改善のためには以下が必要である。
    1. ① 厚生省のGCP省令の第48条の2「治験責任医師は、治験薬の副作用によると疑われる死亡その他の重篤な有害事象の発生を認めた時は、直ちに実施医療機関の長に報告するとともに、治験依頼者に通知しなければならない」を厳格に守らせ、さらに治験報告に必ず記載するよう規定する。
    2. ② ITTの考え方を医師・医療関係者に徹底させる。
  2. (2) 情報(議論)の公開
    厚生省は書面による回答をせず、小川医師は回答を拒絶した。企業は回答はしてきたが、「治療及びその理解に高度の専門性を有するので、そうした医薬品についての情報は専門医に限定し、第三者には控えたい」との理由で回答書の公開を拒否している。オンブズパースンとの議論そのものを市民に知ってもらうことの意義について理解を求めていく必要がある。

機関紙

該当する情報はありません。