調査・検討対象

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マイリス

1 マイリスとは

一般名 プラステロン硫酸ナトリウム
化学名 デヒドロエピアンドロステロン・サルフエイト(DHA-S)
商品名及び企業名 マイリス注・膣座剤 鐘紡、日本オルガノン
アイリストーマー 富士製薬工業
レボスパ イセイ、科薬
適応症 妊娠末期子宮頸管熟化不全(子宮口開大不全、頸管展退不全、頸部軟化不全)における熟化の促進
承認 1980年(但、膣坐剤は97年)。なお、日本のみで承認されている、いわゆるローカルドラッグ
その他 販売高は年間約26億円、初産婦の1/3約20万人に投与されていると推定。マイリス膣坐剤については、1997年9月発売当初は、乱用防止のためとして、妊婦に3、4日毎に外来受診してもらい医師自身が挿入することを原則としていた。そのため当時、調剤薬局では扱われていなかった。その後、院外処方の増加に伴い、医療機関・調剤薬局からの要望に対応して、1998年4月からは調剤薬局でも扱えるようになったという経緯がある。

2 取り上げた経緯とその後の経過

98年8月 新薬学研究者技術者集団が厚生省へ要望書提出
98年12月 新薬学研究者技術者集団からの問題提起をうけ、医薬品治療研究会(TIP)へ予備調査依頼
99年6月 TIPから一次報告あり本格調査に移行。マイリス班編成
99年12月 TIP調査報告書(同時にTIP誌掲載)
00年3月22日 厚生省から安全性情報発表(妊婦のショック、過強陣痛、胎児徐脈)

3 何が問題か

  1. (1) 有効性
    1. ① 治験論文の投与例は、初産婦に対し注射剤で妊娠38週0-4日、ビショップスコアー(BS)4点以下、膣坐剤で妊娠37週0-2日、BS2点以下とされている(なお、38週BS4点以下は全初産婦の約60%、37週BS2点以下は同約45%)が、妊娠末期から分娩までの自然経過は個人差はあるものの39週以降に急激に進行するというのが一般的であり、前記段階の初産婦をすべて子宮頸管熟化不全として治療対象とする必要はない。
    2. ② 治験論文では、妊婦、胎児、新生児への影響はプラセボ(偽薬)との間に統計的有意差が出ていない(難産防止の証拠がない)。
    3. ③ なお、国際的標準治療法は過期産に対するプロスタグランジン製剤の投与である。
  2. (2) 安全性
    1. ① 治験論文では、統計的有意差はないものの、プラセボ群に比較して、本剤投与群の方が胎児切迫仮死が多く、安全性を危惧させる。なお、添付文書には妊婦へのショック、胎児への徐脈が副作用として記載されている。
    2. ② 本剤投与により、自然の妊娠経過では、経験しない高濃度の卵胞ホルモンに胎児をさらすことになり、過去のジエテルスチルベストロール(DES)による発癌、自己免疫症患の例を考慮に入れると、胎児への長期的障害も危惧される。

4 基本的行動方針

必要性、有効性が証明されておらず、安全性も危惧されていることから、(1) 製薬企業や厚生省に対し、製造、販売の一時中止と再評価を求め、(2) 治験医に問題提起し、(3) 臨床現場や妊産婦に情報伝達を行う。

5 具体的行動と結果

  1. (1) 2000年3月22日に、厚生省と製薬5社に「要望書」提出(製薬5社は郵送)、いずれも回答なし。
  2. (2) 同日、日本母性保護産婦人科医会と日本産科婦人科学会に「要望書」を郵送し、6月2日、同学会へ公開質問書郵送。医会から回答なし。学会からは回答困難との返事あり。
  3. (3) 4月21日治験担当医11名に「プラステロン硫酸ナトリウム(マイリス等)の臨床試験等に関するアンケート調査」(質問書)発送。うち1名から「回答不可」との返事あるも、その他は回答なし。
  4. (4) 当会議のホームページ上に、「妊婦及び産婦人科医のみなさんへ」(4月28日)、「マイリス掲示板」(7月3日)をアップする。掲示板での討論はあまり活発とはいえなかった。
  5. (5) 妊婦向け雑誌(5誌)に取材要望を郵送(4月28日)するも反応なし。
  6. (6) 11月5日、公開会議「お産の薬は安全?―子宮頚管熟化促進剤を考える―」を開催。パースン会議再現の形で、マイリス問題の検討過程を公開。参加者61人。
  7. (7) なお、毎日新聞が当会議行動前の99年9月12日及び行動後の2000年4月30日、5月11日にそれぞれ本剤の問題点を報道した。また、2000年3月23日の朝刊各紙は厚生省の安全性情報発表と当会議の要望書提出を報道した。
    また、行動中に訴訟・紛争ケースとして、妊婦のショック2例、その他1例の情報提供があった。2001年9月には、マイリス注による副作用の可能性が否定できないとして、医薬品機構により副作用被害救済対象1例(胎児徐脈に続発した低酸素脳症による高度精神運動発達遅滞と脳性麻痺)が認定されている。

6 今後の課題

臨床の現場では、本剤を使用する医師と使用しない医師にわかれているようであるが、当会議の問題提起がどの程度妊産婦や産科医等の臨床現場に活かされているのかの検証も必要である。