新型インフルエンザ等対策特別措置法問題
1 新型インフルエンザ等対策特別措置法とは
新型インフルエンザ等対策特別措置法(以下、「特措法」という)は、新型インフルエンザ及びこれと同様の危険性を有する新感染症の発生時において、国民の生命及び健康を保護し、並びに国民生活及び国民経済に及ぼす影響が最小となるようにするため、国・地方自治体及び関係機関がとるべき対策措置を定めた法律。
2 取り上げた経緯
当会議は、2009年のA型H1N1亜型インフルエンザ流行時における国の対応について、「『新型インフルエンザ(A/H1N1)ワクチンの接種について(素案)』についての意見」(パブリックコメント)、及び「新型インフルエンザ患者死亡例の調査に関する要望書」を提出するなど、新型インフルエンザの問題を取り上げてきた。2012年3月9日に国会に提出された新型インフルエンザ等対策特別措置法案には後記のように重大な問題があったことから、取り上げることとした。
3 何が問題なのか
- (1) 過大な被害想定
法案は、上限値で入院患者数約200万人、死亡患者数約64万人という被害想定を前提としている(新型インフルエンザ対策行動計画p6)。
しかし、この被害想定は、1918年に発生したスペインインフルエンザのデータを元に推計したものであり、100年前と現在との、衛生状態や医療水準の著しい違いを考慮しない被害想定が過大であることは明らかである。
また、新型インフルエンザの被害想定に関しては、鳥−ヒト感染による鳥インフルエンザ(H5N1)患者の死亡率の高さが指摘されることもあるが、軽症患者や不顕性感染者数を含めた総感染者数が把握されれば死亡率は大幅に下がると思われるものであり、やはり危険性が過大評価されている。 - (2) 個別の対策の効果にも疑問
- ① 水際対策
法案は、新型インフルエンザの海外発生期における水際対策として、港・空港での検疫と感染者の停留措置(29条)、船舶・航空機の来航の制限要請(30条)を定めている。
しかし、水際対策は、2009年のA型H1N1亜型インフルエンザ(09Aインフルエンザ)発生時にも失敗に終わっている。そのため、政府は、ウイルスの国内への侵入を防ぐことは不可能であり、国内侵入の時期を遅らせることが目的であるとしているが、現代における国際交通網の発達や、インフルエンザの潜伏期間(1〜5日)、不顕性感染者の存在などからすれば、水際対策にはデメリットを上回る有意な効果は期待できない。 - ② ワクチン接種
インフルエンザワクチンの接種(28条、46条)に感染防止効果がないことは周知のとおりであり、流行防止効果や重症化予防効果についてもエビデンスはない。
仮に効果があるとしても、新型インフルエンザ発生前に製造されるプレパンデミックワクチンが発生した新型のウイルスに適合するかどうかは全く不明であり、発生後にワクチン株を決定して製造されるパンデミックワクチンも、流行期に入る以前の適切な時期に広く供給することはきわめて困難である。 - ③ 施設利用の制限
法案は、国内発生期における感染拡大の防止措置として、学校、社会福祉施設、興業場その他の多数の者が利用する施設の使用・催物開催の制限等を定めている(45条)。
しかし、人が不特定多数人と接触する機会は多様に存在することからすると、催物の開催や特定施設の利用を制限したとしても、効果は期待できない。一方で、効果を高めるために制限を徹底すれば、かえって経済活動や国民生活に著しい支障を与えかねない。
- ① 水際対策
- (3) 09Aインフルエンザ対策の失敗を無視
国は、09Aインフルエンザ発生時、特例承認し緊急輸入した輸入ワクチンを大量に余らせるなど、危険性に比して過剰な対策を実施することにより、医療機関や自治体の現場に過大な負担を課し、無用の混乱を生んだ。しかし、09Aインフルエンザ対策についての十分な批判的検討がなされないまま、法案は、きわめて緩やかな要件のもとに、対策措置の発動を認めている。 - (4) 不十分な議論
法案は、上記のような問題を有するものであり、また広範な人権制限を伴うものでありながら、十分な国民的議論がなされないまま立法化されようとしている。
4 基本的な行動方針
法案の成立に反対する。
5 具体的行動
2012年3月19日、法制定に強く反対するとする、「新型インフルエンザ等対策特別措置法案に対する緊急声明」を公表した。
6 行動の結果
法案は、2012年4月27日に可決成立した。
7 今後の課題
法成立後、対策措置発動の具体的要件等を定める政令の内容が検討されている。この政令要件についても意見を述べ、適正化を図っていくことが必要である。
機関紙
- 2012-07-01
- 新型インフルエンザ対策法の問題点
- 2012-03-01
- 事務局長レター「新型インフルエンザに関する戒厳令?」