調査・検討対象

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パキシルの胎児毒性

1 パキシルとは

抗うつ剤パキシル錠(一般名:塩酸パロキセチン)はSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)の一種であり、日本では2000年11月から販売され、現在抗うつ薬として広く使用されている。2007年における売上高は国内抗うつ剤市場の中でも最高額(500億円)である。国内製剤には10mg錠と20mg錠があり、効能・効果は、「うつ病・うつ状態、パニック障害、強迫性障害」である。

2 取り上げた経緯

SSRI、とりわけパキシルについては、米国・英国での離脱反応、自殺企図、虚偽宣伝などをめぐる訴訟が起こされているなど、その有害作用や使われ方の問題は、欧米では大きな社会問題となっており、当会も、2008年5月に、衝動性亢進と犯罪との関係や性機能障害についての調査実施及び添付文書改訂を求める要望書を提出したところである。
これらに加えて、米国では、妊娠中にパキシルを服用した女性が出産した児に心奇形が生じたとして訴訟が提起され(2009年10月13日、フィラデルフィア一般訴訟裁判所において、グラクソ・スミスクライン社に対し250万ミリオンドル〔約2億5000万円〕の支払いを命じる判決が出されている。)、パキシルを妊婦が服用した場合に、胎児に先天異常を起こす危険性が高いことが指摘されるようになった。
米国では、既に添付文書の警告欄に記載され、妊婦への使用は原則禁止とされ、患者への注意喚起も行われているが、日本では警告が不十分であり、妊婦への使用が行われている可能性が高いため、問題提起を行うこととした。

3 何が問題か

  1. (1) 催奇形性
    パキシルを妊婦が服用した場合に、胎児に先天異常をおこす危険性は様々な客観的根拠をもって明らかとなっている。すなわち、①米国FDAによる疫学調査分析の結果等において心奇形のリスクが増加することが指摘されていること、②国内の審査報告書においてもパキシルの生殖発生毒性が指摘されていること、③医薬品医療機器総合機構(PMDA)に対し、2000年度から2008年度の間、パキシルの副作用症例として心房中隔欠損症が4例、心室中隔欠損症が3例報告されていることである。
  2. (2) 離脱症状
    パキシルを含むSSRIについては、依存性があり、①国内の審査報告書、②国内添付文書の記載、③医学論文での報告等において、中止時の離脱症状が指摘されている。妊婦のみならず妊娠可能な患者に対する使用のあり方を検討するにあたり、パキシル中止時の離脱症状は非常に重要である。
    また、妊婦のパキシル服用により、新生児薬物離脱症候群が発生する可能性があることも指摘されており、実際、2000年度から2008年度の間、PMDAに対し、21例の新生児薬物離脱症候群の副作用症例報告がなされている。

4 基本的な行動方針

新生児の先天異常を防ぐためには、パキシルの妊婦に対する使用は原則として禁止すべきであり、パキシルには依存性があることに鑑みると、妊婦のみならず妊娠可能な女性に対しても、パキシルの使用を原則として禁止すること、やむを得ず使用する場合であっても、患者にリスクを十分説明し同意を得ることが必要であるから、添付文書の改訂を求めると共に、患者への情報提供が適切になされるよう、問題提起を行っていく。

5 具体的行動とその結果

  1. (1) 2009年10月21日、厚生労働省及びグラクソ・スミスクライン株式会社に対し、「抗うつ剤パキシル錠の妊婦への使用に関する要望書」を提出した。これに対し、グラクソ・スミスクライン社から、2010年1月22日、回答が寄せられたが、添付文書の改訂についてはその必要性を認めず、患者への説明文書の交付についても、積極的な回答はなされなかった。
  2. (2) 2010年4月9日、当会議は、グラクソ・スミスクライン社に対し、上記回答に対する意見書を送付し、再度添付文書の改訂の必要性及び患者への注意喚起について、同社の積極的姿勢を求めたが、これに対する回答はなされていない。

6 今後の課題

従前からSSRIについては、衝動性亢進と犯罪との関係、児童・成年を対象とした製造販売後臨床試験の問題等様々な問題があり、当会も検討を続けてきたところである。胎児毒性の問題については、現在も米国では訴訟が行われているため、引き続き情報収集を行い、注意喚起を行っていく必要がある。

機関紙

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