調査・検討対象

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新型インフルエンザ(09Aインフルエンザ)

1 新型インフルエンザ(09Aインフルエンザ)とは

一般に、新たにヒト−ヒト間の伝染能力を有するようになったウイルスを病原体とするインフルエンザ感染症を新型インフルエンザという。
「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」では、適用対象となる「新型インフルエンザ」を「新たに人から人に伝染する能力を有することとなったウイルスを病原体とするインフルエンザであって、一般に国民が当該感染症に対する免疫を獲得していないことから、当該感染症の全国的かつ急速なまん延により国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあると認められるもの」と定義している。
2009年4月にメキシコで発生が確認され、世界的に流行したA型H1N1亜型インフルエンザは、感染症予防法上の「新型インフルエンザ」に該当するとされた。
以下、このA型H1N1亜型インフルエンザを、以下「09Aインフルエンザ」と表記する。

2 取り上げた経緯

2009年9月、厚労省が、09Aインフルエンザ対策の一環として「新型インフルエンザ(A/H1N1)ワクチンの接種について(素案)」を策定し、パブリックコメントを募集したのに対し、パブリックコメントを提出することとした。

3 何が問題か

  1. (1) 輸入ワクチンの特例承認
    素案では、薬事法14条の3の定める特例承認を適用することを前提に、海外メーカー製インフルエンザワクチンを緊急輸入するものとしていた。しかし、特例承認は、公衆衛生上重大な事態の発生を防ぐため、当該医薬品を使用すべき緊急の必要性が特に強い場合に、例外的に通常の承認審査手続を経ずに当該医薬品の使用を認める制度であり、輸入ワクチンに特例承認を適用することには以下のような問題があった。
    1. ① 必要性が乏しい
      パブコメ募集時点で、09Aインフルエンザの8月30日までの推計感染者数約54万人に対し、9月8日までの入院患者数733人、9月11日までの死亡例数が12人(09Aインフルエンザとの因果関係が不明なものを含む)となっており、重症例・死亡例の発症頻度は季節性インフルエンザと比較して高くないと考えられた。
      一方で、ワクチンにはインフルエンザのまん延を防止する効果が期待できないとされており、重症化や死亡を防止する効果についても十分なデータが存在しない。
      したがって、輸入ワクチンを緊急に使用すべき必要性は乏しい。
    2. ② 安全性が明らかでない
      輸入ワクチンについては、アジュバントの使用や細胞培養による製造など、国内製ワクチンとの相違点があり、その安全性が明らかとなっていない。
    3. ③ 薬事法の要件をみたさない
      薬事法14条の3は、特例承認の要件として、①国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがある疾病のまん延その他の健康被害の拡大を防止するため緊急に使用されることが必要な医薬品であること、及び②当該医薬品の使用以外に適当な方法がないこと、を挙げている。
      しかし、季節性インフルエンザと比較して特段危険性が高くない09Aインフルエンザは①「国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがある疾病」に該当せず、また、医療従事者をはじめとする優先接種対象者(約1900万人)をほぼカバーする数量(約1800万人分)が国内製造ワクチンによって確保できるため、②輸入ワクチンの使用以外に適当な方法がないともいえない。
  2. (2) 企業免責
    ワクチンの輸入にあたり、海外メーカーが副作用が出た場合の免責を契約条件に求めていることが報道されており、これに応じた補償制度を構築すべきとの意見が国内で出されていた。
    しかし、補償制度は不幸にして健康被害が生じた場合の次善の策にすぎず、第1に求めるべきは可能な限り安全なワクチンの供給である。安全性の未確認な輸入ワクチンを使用するために、十分な議論を尽くさないまま企業免責を含む補償制度を導入することは不適切である。
  3. (3) 不正確な情報提供
    ワクチン接種の任意性を担保するためには、09Aインフルエンザとワクチンの有効性・安全性についての正確な情報提供が不可欠である。
    しかし、わが国では、重症化する例があることや死亡例の発生が報道において強調され、市民に必要以上の不安感がもたらされている状況にあった。
    一方、素案では、ワクチンには重症化や死亡を防止する効果があるとされていたが、その記載内容は過去の研究結果を正確に反映しておらず、有効性を過大に提示しているものであった。


4 基本的な行動方針

輸入ワクチンの特例承認及び企業免責の導入阻止、09Aインフルエンザの危険性及びワクチンの効果についての正確な情報提供、ワクチンの効果及び安全性についての疫学的研究の実施などを求めていく。

5 具体的行動

2009年9月13日付で、上記問題点についての意見をまとめた「『新型インフルエンザ(A/H1N1)ワクチンの接種について(素案)』についての意見」(パブリックコメント)を厚生労働大臣に対し提出。
さらに、2009年11月26日付で「新型インフルエンザ患者死亡例の調査に関する要望書」を厚生労働大臣に対し提出。厚労省が発表している、新型インフルエンザ患者の死亡例について調査を行い、新型インフルエンザ感染と死亡との因果関係の有無、及び死亡までに投与された薬剤による副作用の可能性に関する所見を公表することを求めた。

6 今後の課題

欧米では、09Aインフルエンザに対してWHOがとった過剰な対応が批判の対象となっており、利益相反の問題も含めてこれを検証する動きが出ている。わが国においても、政府の対応が適切であったのかについて十分に検証することが必要である。