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 喘息用吸入剤は即効性があり苦しい喘息発作も使い初めはピタリと止まる。これで喘息死を免れるはずと期待するのも無理はない。だが結果は裏腹で喘息死は増加した。原因と疑われた心刺激性の強い喘息用吸入剤(イソプロテレノール)の使用を減らしたら喘息死も減った。1960年代の話だ。その後開発されたベロテックは心臓への影響は少なく安全と宣伝されたが、まったくのウソだった。
 ニュージーランドで喘息死の流行に疑問を持ったクレイン氏らが中心となって疫学研究を実施したら、ベロテックとの関連が浮かび上がった。重症患者では、ベロテックの危険は使用しない人の13倍にも達した。ニュージーランドではその報告に基づきベロテックエロゾルを保険薬から外した結果、使用量も喘息死も激減した。その後の研究も含めて3つの研究はどれも同じ結果となった。さらにその後メーカーが出資して実施したカナダでの疫学研究でも量を増やせば同効薬に比較して13 倍危険だと判り、疫学的な因果関係は動かぬものとなった。
 メーカー自身が出資して実施した動物実験では同じ系統のサルブタモールと比較して心臓への刺激は26倍、心毒性は約 200倍強かった。人でもサルブタモールだと心拍数が減少するが、ベロテックエロゾルでは心拍数が増加し両者の差は明らかだった。
 日本では、1985年にベロテックエロゾルを使用開始以降、急に喘息死が増え数年で約2倍に増加した。厚生省が危険情報を97年5月に出したが、薬害オンブズパースンが97年5月に大々的に取り上げたところマスコミでも連続して大きく報道された。その結果ベロテックエロゾルの使用量は半減し(表1)、それにともない喘息死亡率は約60%と、ほぼ発売開始前の状態に戻った(表3)。他の吸入剤は使用量は変わらずやや増加傾向さえ見える(表2)。ステロイド吸入剤との関連もなかった。したがって喘息治療全体が改善されたたとは言えない。
 薬害オンブズパースンに寄せられた被害者の方は全員病院で処置を受ける前に意識消失するか突然死されている。動物実験では、低酸素状態だと通常では異常を生じない量の喘息薬で心停止が起きる。ベロテック使用者の突然死を助けられないのは、家庭での低酸素状態による異常な心停止のためと考えれば矛盾なく説明ができる。
 喘息死に密接に関連し、安全な代替薬もあるベロテックエロゾルは中止すべきだ。

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