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 昨年12月の医療法の改正により、医療における患者への情報提供が明記されました。薬局では、昨年4月からの薬剤師法改正もあり、情報提供文書(薬の説明書)の発行が急速に進んでいます。それ自体は歓迎すべきことですが、インフォームドコンセントを考えるならば、選択する治療法が確立されたものであるかどうかこそ、医師から説明される必要があります。発売直後の新薬がその旨を告げられることもなく安易に使用されているのではないでしょうか。
 そのことを実感したのが糖尿病治療薬「ノスカール」です。発売後6カ月間で、20万人の患者に使用されたと推定されています(日本糖尿病学会理事会)。本来インシュリン抵抗性が確認される患者にのみ厳密に選択されるべき糖尿病治療薬が、第一選択薬のように販売された結果、110人の重篤な肝障害患者を発生させ、そのうち9人が死に至っています。このような実態を考えると、患者の側に「安易に新薬を使わせない」という構えをもっていただきたいという思いを一層強くしています。自分の安全は自分で守る姿勢が必要です。
 とはいえ、薬剤師の側からこのような言葉を患者に発することには複雑な思いがあります。本来、厚生省のずさんな新薬許可、医師の安易な新薬の使用に対して薬剤師が専門的立場からきっぱりした姿勢を示さなければならないと考えるからです。「ノスカール」に関しても、一部には薬剤師が事前に評価して、効果が未確立であり使用すべきでないと判断した病院もあります。
 承認取消が宣告された脳代謝賦活剤に関して薬剤師はどのように対処していたでしょうか。それらの薬をきちんと服用するよう患者に一生懸命服薬説明していたのではないでしょうか。
 薬剤師は薬が選択される以前に、とりわけ新薬について、客観的情報を入手し、有効性、安全性(さらには経済性)を評価し、患者への安易な使用をくいとめる役割を発揮しなければならないと痛感します。
 薬害オンブズパースン会議に参加し、弁護士の方々が医薬品の臨床治験論文を読み、評価する努力に触れ、現場の薬剤師は臨床治験論文にどれだけ接しているであろうかと思わざるを得ません。
 繰り返される薬害を教訓とし、また、薬物治療に対する有効性も含めた厳しい評価が求められている中で、薬剤師が「薬の安全性の監視役」という意識を高め、新薬を評価する努力をぜひおこなっていただきたい。医師が使用する医薬品に対して薬剤師が全く関与できない実状があるかと思いますが、医師の信頼を得るにはその努力の蓄積が必要です。毎月開かれる薬害オンブズパースン会議は、薬の安全性・評価について考え、学ぶことのできる場でもあり、ぜひ多くの参加を呼びかけます。
 薬害オンブズパースン会議の1年間の活動の中で、6品目の医薬品に取り組んできました。それらのいずれも未だ決着をみていません。製薬企業、厚生省に対し、その危険性を認めさせる活動が容易ではないことを実感しています。
 取り上げられる品目数は限られていますが、具体的に危険性を社会に発信する中で、薬の使用に対して医療従事者、患者、市民の意識に変化が生まれてくることを願っています。

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