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独立医薬品情報誌(製薬メーカーの誇大宣伝や偏った情報に影響されず、臨床の視点から信頼しうる情報提供をめざす雑誌)の刊行を始めて12年、雑誌としてはそれなりの評価は得るようにもなったが、大きな壁に突き当たっていた。相変わらず繰り返される薬害の発生をみていると、医師や薬剤師向けにいくら情報を発信しても、その意思や行動を変える力にはなりえないという無力感だけが残った。市民参加型の薬害監視機構を作ろうという計画を聞かされたのは、ちょうどそんな時である。計画自体に異存はなかったが、いざ参加するとなると不安も多かった。時間的な余裕はあるのか、参加者層の厚みがどれくらい期待できるか、資金は、医療専門家と一般市民の違い、情報がもつ意味とそのもたらす影響のギャップにどれくらい配慮できるか、どれも分からないことばかりだった。
 予想どおり、最初はまさに激動の5ヶ月だった。フェノテロール吸入薬(ベロテック)の危険性、ヒト乾燥硬膜移植によるヤコブ病の発生、抗癌剤イリノテカンによる副作用死の問題がさまざまな角度から検討された。ときには、患者、医師、薬剤師、弁護士、一般消費者、それぞれの理解や意見に大きな隔たりがみられることもあったが、議論の中から次第に問題の核心が浮かび上がり、やがて今何をすべきかという共通の認識が育ってくるまでのプロセスは聞いているだけでも楽しいものがあった。おそらくこうした経験は、タイアップグループの中にも育ち、やがては市民の間にも広がり、医療社会の現状を変えてゆく力になるだろうと、いま確信に近い思いで感じ始めている。

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