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 2022年5月に実施された薬機法改正においては、緊急薬事承認の法制化と同時に、電子処方箋が法制化された。電子処方箋とは、保険証に変えて、マイナンバーカードによるオンライン資格確認システム(以下、オンライン確認)を拡張し、紙による処方箋の運用を電子で実施する仕組みである(2023年1月運用開始)。電子処方箋の記録、重複処方チェックをはじめとする電子処方箋管理サービス業務(以下「管理サービス」)を社会保険支払基金と国民健康保険連合会が担い、処方と調剤情報を即時的に一元管理する仕組みとして整備するというもの。その意義を、「処方箋の電磁的な伝達だけでなく、他医療機関・薬局の処方および調剤情報を医師や薬剤師等が参照し、重複投薬の削減など、薬剤の適正使用に資する」としている。

 患者は、「管理サービス」に集積された処方データを、マイナポータル(マイナンバーにより行政機関が持つ個人情報を確認できる個人専用情報サイト)を通じてオンラインで閲覧できる。マイナポータルは、本人の閲覧のみならず、民間による個人の保健医療記録(PHR)への接続を可能とし、民間による個人情報の利活用を促進するねらいがある。電子処方箋の法制化は、オンライン確認を基盤とする医療のデジタル変革への突破口にならないだろうか。

 オンライン確認は2021年10月より任意としてスタートしたが、2022年10月からの診療報酬改定では、導入の原則義務付けと診療報酬上の加算を制定した。また、河野デジタル大臣が2024年秋に現在の健康保険証を廃止し、マイナ保険証(マイナンバーカードの健康保険証利用)に一本化することを表明し、物議を醸している。

 これらデジタル化の前提である電子カルテの普及率は、一般診療所では2020年時点で49.9%と半数に達していない(厚労省統計)。国民は、任意であるはずのマイナンバーカードの交付を受けざるを得ない状況となり、医療機関はオンライン確認の義務化により電子カルテの導入が不可避となる。

 日経メディカルオンラインによれば、2022年9月に実施した医師会員向けのアンケートで、電子処方箋の運用が2023年1月から始まることについて「知らない」と回答した医師が7割を超えた(総回答数8782人)。病院・診療所経営者および開業医においても過半数の医師が「知らない」と回答、情報不足が浮き彫りになったとコメントされている。あまりに現状を無視した施策であることを物語っている。

 新型コロナウイルス感染症への対応でデジタル分野での遅れが顕在化したとして、国や地方の情報システムの連携、マイナンバー等のデジタル基盤の整備を進め、民間によるデータの利活用を一気に進めようとしている。

 しかし、個人の保健医療情報は極めて機微な情報である。危ういデジタル庁のもとで、そのような個人情報のマイナポータルを通じた運用と民間による利活用はあまりに拙速である。その突破口と言える電子処方箋システムが開始されることに大きな不安を抱かざるを得ない。

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