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 ラゲブリオはMSDが製造販売している経口新型コロナ治療薬で、2021年12月に、ほぼ海外のデータのみで特例承認された薬です。

 軽症ないしは中等症の患者に投与すると重症化する率を30%程度下げることができると宣伝され、現在、高齢や肥満など重症化因子を持つ患者への投与が盛んに行われています。

 しかし当会議で治験成績を分析した結果、治験後半に参加した646人の成績(中間解析後の治験データ)では、実薬群のほうがプラセボ群より重症化率が高く、この薬が無効であった可能性が示されました。また、すでに新型コロナウイルスに抗体を持っている人のサブグループ(部分)解析では、実薬群とプラセボ群で重症化率に差がなく、無効だったというデータもありました。

 つまり国内での治験を省略してまで、急いで特例承認しなければならないほど、画期的な効果を持つ薬とはとても思えない成績でした。フランスでは、治験の最終成績が期待外れだったため、当初予定していた発注が取り消されたというニュースも報じられています。

 一 方、安全性はどうなのでしょうか。販売開始後半年間に行われた「市販直後調査」によると、これまでに約20万人に投与されて3584件の副作用報告(うち重篤が449件)があり、31人の死亡が報告されています。この「市販直後調査」は、治験では十分わからなかった副作用情報を迅速に把握するために行われるものですが、添付文書の重大な副作用にアナフィラキシーが追加されたのみで、死亡した31人がどのような経緯で亡くなったのかその詳細は明らかにされていません。

 また動物実験などから、この薬には催奇形性が疑われています。そのため、妊婦または妊娠の可能性がある女性に対しては禁忌(投与してはいけない)となっていますが、「市販直後調査」の副作用リストには「流産」が1件あり、本来ならあってはならない、妊婦または妊娠の可能性のある女性への使用が、実際に行われたとみられます。

 この薬の添付文書の冒頭には、特例承認された薬剤であることと、「患者又は代諾者に、その旨並びに有効性及び安全性に関する情報を十分に説明し、文書による同意を得てから投与すること」との但し書きがあります。しかし、実際の医療現場では、そうしたインフォームド・コンセントの手続きがないがしろにされているのではないかと疑わせる出来事です。

 当会議では、有効性と安全性に疑問があるこの薬を特例承認し続けることは許されないとして、2022年4月、この薬の使用を一時中止し、通常の承認審査を改めて行うことや、死亡例を含む副作用の詳細について公表することを求めて、厚生労働省とMSDに対し要望書を出しました。

 現在、新規陽性者数が過去最高を記録し、第7波がやってきたと騒がれていますが、国内の重症者数は第6波よりも桁違いに少ないままです。つまり新型コロナの重症化率は、この薬の治験が行われた当時よりずっと下がっているのです。その低い重症化率を少し下げるだけの薬が、多数の患者に使われ続けている現状を少しでも変えていく必要があります。

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