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● 学会誌公表要件制度廃止問題

 日本では、サリドマイド事件を初めとする薬害事件の教訓から、1967年9月、二重盲検比較試験や副作用報告などの医薬品の有効性・安全性確保のための規制を導入した厚生省(当時)薬務局長通知「医薬品の製造承認等に関する基本方針」が発出されたが、この基本方針では、承認審査資料として提出される臨床試験(治験)データについて、原則として学会もしくは学会誌に発表されたものでなければならないとしていた。この制度は長らく実務において定着していたが、厚生省は、1999年1月、医薬品関連の規制緩和の一環として、これを廃止する方針を示した。

 当会議は、現在では、個別の医薬品と同程度に、薬事に関する制度の問題を検討対象としているが、1997年6月の発足当初はもっぱらベロテック、H2ブロッカーなど個別医薬品を対象としており、この学会誌公表要件制度廃止問題は、当会議が取り組んだ最初の制度問題であった。

● 公表要件制度の意義

 公表要件制度は、承認申請資料の質を一定程度確保するとともに、公表された治験論文によって医薬関係者が医薬品の有効性、安全性などを検証するという、重要な役割を果たしてきた。当会議が個別医薬品の問題点を検討するにあたっても、まず基本となるのが治験論文であり、かつて、数多ある脳循環・代謝改善剤の治験論文をすべて取り寄せて検討したのが思い出される。

 当時、承認審査や臨床試験の質について、欧米に対する日本の遅れが指摘されていた中で、公表要件制度は、諸外国にはない先進的な制度であった。しかし、米国・欧州・日本の3極の医薬品規制の調和を目指したICH(医薬品規制調和国際会議)において欧米にはない規制として批判を受けたのが、廃止のきっかけの一つとされる。ICHは日本の承認審査システムの向上に寄与したが、それが日本で重要な意義を持っていた公表要件制度の廃止のきっかけとなったのは皮肉なことだった。

● 当会議の活動

 厚生省は、公表要件制度に代わるものとして、「新医薬品承認審査概要」を公表するとしていたが、これは製薬企業が作成するものとされており、学会誌に公表される治験論文と同等の情報が公表されるのか疑問があった。そこで、当会議は制度廃止の撤回を求める申入書の提出(1999年3月)、関係51団体の賛同署名の確保、国会議員へのロビー活動などを展開したが、廃止を食い止めるには至らなかった。

● その後

 現在、日本では、審査報告書と申請資料概要の公表が公表要件制度に代わるものとなっている。これらも医薬品の有効性・安全性を検討するための資料として有用なものとはなっているが、治験実施施設や治験実施時期等、治験論文では公表されていた情報が、知的財産保護を理由に非公表となった部分もある。大きく臨床試験の情報公開という観点からは、臨床試験登録制度の広がりなど進展も見られるが、全面的な結果公開に対する製薬企業のガードはなお堅い。一方で臨床試験データの隠蔽等のスキャンダルは後を絶たず、臨床試験の情報公開はいまもなお重要な課題であり続けている。

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