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 私は弁護士1年目の4月から薬害オンブズパースン会議(以下、「パースン」)の活動に参加してきた。パースンでは常に複数の弁護士がメンバーとなっているが、その顔ぶれを見ると、後進の育成の必要を感じ、若い弁護士がこの活動に関心を持ってくれたら、と思う。そこで、弁護士がパースンで活動することの意味をあらためて考えてみたい。

 パースンの活動で最も基本となるのが、医薬品の有効性・安全性の評価である。有効性・安全性評価は医師・薬剤師のメンバーが中心になって行うが、意見書等を起案するときには(弁護士の本職は文書作成なので起案を担当することが多い)、まずはパースンでの有効性・安全性に関する議論を理解することが必要となる。私がパースンで最初に担当したのが脳循環・代謝改善剤の意見書だったが、定例会議では「全般改善度」やら「有意差」やら聞いたこともない用語が飛び交っていて、文系で数学や理科系は苦手な私は不安だった。しかしやってみると、筋道立てて考えれば素人でも理解できるもので、法律学で培った論理的思考力が生かせると感じた。そういう意味で、弁護士にはむしろ向いているように思う。

 次に、パースンの活動は市民運動であるから、そうした専門的議論を素人である一般市民にも理解できるように分かりやすく伝える(文章にする)というのも、起案などの時の重要なポイントになるが、これも弁護士の仕事に通じるものである。担当する事件に何らかの専門的知識が関連することは珍しくなく、それを依頼者から学び、素人である裁判官に分かりやすく伝える、というのは弁護士にとって重要な能力である。医薬品に関する専門的議論を分かりやすく伝える一方で、専門家からクレームを受けないよう正確さを保つ、というのは簡単ではないことである上に、パースンメンバーたちの要求度は高く、定例会議では提出した意見書案に対して徹底した議論がなされるから、弁護士にとっては訓練になる。

 また、パースンでは制度問題も検討対象としているが、そこでは法令の確認が必要となる。法令に合致しない意見は説得力を持たないし、必要なら法改正を求めなければならない。薬事関連法規は条文の作り方がテクニカルなので、法律家でないと非常にわかりづらく、それをいいことに、厚労省が実は法令に根拠のない規制をしている(あるいは法令上必要な規制をしていない)こともあるから、弁護士による法令の検討は重要である。

 さらに、パースンが当事者となって訴訟を行ったこともあり(住民訴訟、情報公開訴訟)、そこで弁護士が役に立つのは言うまでもない。

 そして、これは弁護士だからということではないが、パースンの活動を通じて厚労省や製薬企業の振る舞いを見ていれば、これを監視して遠慮なく意見を述べるパースンのような存在は絶対に必要であり、重要であると感じる。パースンの意見や要望通りに厚労省や製薬企業が動くことは少ないが、もしなければやりたい放題になってしまうだろう。

 パースンの活動は、弁護士の能力が求められ、やりがいもある活動である。興味を持った方は、ぜひ一度定例会議に傍聴参加してみてほしい。

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