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 薬害オンブズパースン会議の活動も1997年の発足から5年がたった。月1回の定例会は62回を数え、公表した意見書は55通、ホームページアクセス数は75000である。
 ところで、この5年の間に、医薬品をとりまくボーダーレスな(境界のない)環境は一層深刻になったように見える。
 例えば、中国製ダイエット食品による健康被害の発生は、医薬品と食品の違いは何かという素朴な疑問を私たちに突きつけた。厚労省のホームページの説明では、医薬品と食品の区別は、大雑把に言えば、成分の本質(原材料)医薬品に該当するか、医薬品的な効能効果をうたっているか、医薬品的な形状がとられているか、医薬品的な用法用量ではないかという4つのポイントで判断される。成分が医薬品に該当すれば(基準リストがある)それはもう医薬品だが、該当しなくとも、標榜している効能効果、形状、用法用量のいずれかが医薬品的であれば、それは医薬品となるというのである。
 問題のダイエット食品からは医薬品成分が検出されたうえ、医薬品まがいの効能効果を標榜していたということであるから、医薬品に分類されるということになろう。
 しかし、医薬品の輸入であれば、すべて薬事法による規制を受け、有効性・安全性に関する審査を経ているかというとそうではない。「営業のために」輸入する場合は、薬事法によって厚生労働大臣の許可が必要とされているが、「個人が自分で使用するため」に輸入する場合や海外から持ち帰る場合には、数量等の制限はあっても薬事法の許可は必要ない。個人輸入は自己責任というわけである。
 被害を出したダイエット食品もその多くが個人輸入であった。インターネット上には個人輸入代行業者のホームページが無数にあり、個人輸入の代行という言葉では済まされない実態があることは容易に分かる。
 かつてあれほど悲惨な薬害を引き起こしサリドマイドが、医師によって米国等から個人輸入されている現状もある。米国ではハンセン病の結節性紅斑に適用を制限し、処方前に製薬会社に登録する厳格な販売システムとることを条件に承認を得ているが、我が国では、癌治療に用いられ、癌治療に関する雑誌には、個人輸入したサリドマイドを患者の治療に用いている医師による報告記事が競うようにして掲載されている。ルールづくりとコントロールが必要であることは言うまでもない。
 発足当初、私たちは、薬事法の下で、有効性や安全性が吟味されたはずの医薬品によって薬害が繰り返される現状に、市民の手で楔を打ち込みたいと考えていた。その思いと必要性は今も変わらないが、承認医薬品だけを問題にしていたのでは、薬害を防ぐことはできないという現実も加わったのである。
 本年9月初めには、環境ホルモン作用が疑われる医薬品添加物BHA、BHTに関する要望書を公表して、医薬品添加物の安全性と表示のあり方について問題提起をしたが、食品の添加物に敏感な消費者や妊婦もビタミン剤等に含まれる医薬品添加物の安全性には案外無頓着である。それでよいのだろうか。消費者は、ボーダーレスに「安全性へのこだわり」をもつことが求められている。

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