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 高齢者にとってリスクが高く避けるべきとされている薬剤の処方やポリファーマシー(害のある多剤処方)は、幻覚、認知機能低下等症状の発現、転倒による寝たきりの高齢者を多く生み出しています。薬害オンブズパースン会議は2020年12月10日、この問題を高齢者の生命・健康・人としての尊厳を損なう薬害と捉え、深刻な状況にありながら改善が進んでいない実状を打破するため、改善に重要な役割を担っている薬剤師職能団体(日本薬剤師会、日本病院薬剤師会および日本保険薬局協会)に対して「高齢者における深刻な薬の害作用の問題解決のための要望書 ポリファーマシー問題を中心に」を提出しました。

 要望書の中で重要な論点の一つは、薬剤師は、個別の患者に最適な薬物療法を実現するために不可欠なインフォームドコンセントの実践に重要な役割を担っている、という薬剤師の専門職責任の問題です。インフォームドコンセントは、単に「医師が患者に一般的な情報を伝え患者が同意を与えるもの」ではなく、患者が、薬剤師や医師と情報を共有し、最善の治療を選択し、医療に参加していく行為です。インフォームドコンセントを患者と医療者の協働の営みとして深く捉えることを提起しています。処方の一元化を担い、インフォームドコンセントを実践する立場から、飲み合わせや重複処方の疑義照会のみならず、「処方提案」を通じて、薬物療法の個別最適化に積極的な役割を果たすという、薬剤師に課せられた専門職責任について団体内で議論し、共有し、薬剤師の意識改革と実践のための研修等に積極的に取り組むことを強く要望しています。また、「処方提案」をすべての薬局で実践するために、「高齢者の処方適正化スクリーニングツール」(STOPP−J)等の活用を含め、事例の集約と交流などの組織的な取り組みを求めています。

 研修に関してさらに求めることは、副作用や薬害の実態に目を向けた、被害者から学ぶ研修です。日常業務において、深刻な副作用被害や薬害の事実に直面する機会は多くありません。かかりつけ薬剤師機能強化のための研修の一環として、薬害被害者の声を直接聴く機会を設け、薬害防止における薬剤師の果たすべき役割を議論し実践に生かすことを強く要望しています。

 とりわけ職能団体に求めることは、医師と薬剤師の協働を妨げている関係性の打破という課題です。かかりつけ医と専門医の連携、病院と薬局間の連携、医師と薬剤師の協働等の問題は、個別の医師や薬剤師間で対処することが難しく、長年の課題となっています。各地域薬剤師会が地域医師会と連携し、学習会や協議を重ね、協働する関係性を構築するという重要な役割を果たすことを求めています。

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