閉じる

● ハルシオンの問題性

 ハルシオンは、ベンゾジアゼピン系の睡眠導入剤である。ファルマシア・アップジョン社(2003年にファイザー株式会社に吸収合併)が開発し、現在は、後発医薬品も発売されている。

 当会議では、2015年、2017年にベンゾジアゼピン系薬物一般の依存の問題をとりあげ、常用量(承認用量)でも数週間で身体的・精神的依存を生ずる危険性があり、中には錯乱、幻覚など深刻な離脱症状を生じる場合もあるとして処方期間の制限を求めたが、ハルシオンは当会議が2002年にはじめて取り上げたベンゾジアゼピン系薬剤であった。具体的には、ファルマシア株式会社宛に、「ハルシオンの患者用説明書についての要望書」を提出し、機関誌などにも掲載した。

● ハルシオンをめぐる当時の状況

 ハルシオンは素早く入眠できるが、半減期が3時間と短い。そのため、夜間に中途覚醒し、逆に眠れなくなることがある(反跳性不眠)。ベンゾジアゼピン系薬剤の中でも特に依存性が高く、患者は日中の血中濃度の低下によるイライラや不安を、自分の病による症状ととらえて短期間に服用頻度が高まり、その量も増大する。また、この薬をめぐっては、アップジョン社の承認申請用データの捏造、虚偽表示の問題もあった。不正が明らかになった後、欧米諸国では販売停止や臨床データの見直し作業が行われたが、日本の旧厚生省は特別な対応をとらなかった。結果、日本では安易にハルシオンが使用され、2001年当時世界シェアの約60%を占めていた。

● 患者向説明文書の問題点

 ハルシオンは、当会議が患者向説明文書についてはじめて取り組んだ薬でもある。当時の日米の患者向説明文書の比較をしたが、日本の患者向説明文書には、医師用の添付文書で注意喚起されている、異常行動、車の運転の制限、反跳性不眠など、本剤の安全な使用に不可欠な副作用情報についての記載がなかった。米国の患者には説明が必要であるとして患者向説明文書に記載しているのに、なぜ製薬会社が日本の患者には説明しないでよいと考えたのか、理解に苦しんだ。

 さらに、日本の患者向説明文書には記載があっても意味不明なものもあった。特に忘れられないのは「就寝の直前、寝るしたくをすっかりすませてから服用してください」という記述である。これは本剤には、服用した後に中途覚醒してとった行動についての記憶がない、つまり夢遊状態で行動するという副作用があることを踏まえた記載なのである。しかし、そういう副作用があるからだということは全く書かれていないので、読んでも何のことだか分からず注意喚起にならない。会議で検討した際には、これではまるで小学生への生活指導のようで、馬鹿らしすぎるという指摘も出て、思わず笑った。

● 問題は解決されたか

 2019年7月更新のPMDAのWEBサイトに掲載されている「患者向医薬品ガイド」をみると、上記の点は改善されているが、問題はこれがどれだけ服用している患者に伝わっているかである。ハルシオンの離脱症状によるものと思われる被害情報は今も寄せられている。問題は解決されていないと感じる。 

閉じる