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 HPVワクチンの副反応被害をめぐる報道について、被害者の症状を伝える報道がバランスを欠いていて過剰なのではないかという指摘があります。

 こういう見解に触れたときに感じることは、発言されている方が、HPVワクチンについての科学的な知見の到達点を本当に正確に知っているのだろうかということであり、薬害の歴史や被害者の状況とメディアの果たしてきた役割をどこまで知っているのだろうか、ということです。

 HPVワクチンの副反応は、接種してから時間をおいて現れることが少なくないことや、発症当初は比較的軽症で、時間の経過とともに重症化・重層化(複数の症状が現れる)することが多いことなどから、多くの被害者は、症状とワクチンとの関連に気づかず、必死の思いで多数の医療機関を受診しても原因も治療法も見いだせないまま、孤立し、途方に暮れる状況に長い間おかれていました。それが数年を経てようやくメディアが症状をとりあげるようになったことで、被害者は自分の症状と似ていることに初めて気づき、同様の被害が多数発生していることが明らかとなっていきます。もしこうした報道がなければ、副反応が顕在化しないまま被害が広がっていくことになるでしょう。

 薬害事件で医師が医薬品との関係性に注意を向けるようになる契機は、厚労省の通知でも論文でもなく、報道であったこと、それでも自発報告システムのもとで報告される有害事象は氷山の一角であることは、歴史が示す真実です。

 因果関係が科学的に証明されてから報道すれば誰からも文句は出ないでしょうが、薬害事件の場合、科学的な因果関係が証明されるのに被害の発生から10年以上を要することも稀ではありません。それでは報道の役割は果たせません。

 HPVワクチンの推進の背景には、企業が多額の資金を投じ、専門家と癒着して展開した啓発に名を借りたプロモーション活動がありました。一方、今も被害者の厳しい現状は変わりません。薬害の歴史に学び、弱者に寄り添う報道であってほしいと思います。

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