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 ある医薬品の使用を推奨するガイドラインを作成した医師が、その医薬品を製造・販売している企業から多額の金銭を受け取っていたとしたら、あなたは、そのガイドラインは公正に作成されたものと信頼できるでしょうか。

 脳卒中や全身性塞栓症などを予防する抗血液凝固療法には、従来ワルファリンという薬が使用されてきましたが、近年、NOACという新薬が発売されました。
 日本循環器学会、日本心臓病学会、日本心電学会(当時)、日本不整脈学会(当時)が作成した「心房細動治療(薬物)ガイドライン(2013年改訂版)」の中でも、ワルファリンよりNOACが強く推奨されており、NOACはその売上を伸ばしています。
 ところが、上記ガイドライン作成時には、NOACのうち最初に販売されたプラザキサ(ダビガトラン)について米国で多数の死亡例が報告され、日本でも5件の死亡例をきっかけに安全性速報(ブルーレター)が発出されるなど、既にその安全性に強い懸念が存在していました。それにもかかわらず、NOACを推奨する上記内容のガイドラインが作成されたことには疑問を持たざるを得ません。

 そこで、当会議が調査したところ、2014年度には、ガイドラインを作成した日本循環器学会、日本心臓病学会、日本心電学会(当時)、日本不整脈学会(当時)の合同研究班の班長、班員、協力員計11名全員が、NOACの製造・販売企業5社から総額で1億1400万円余を受け取っていたことが解りました。最も多く受け取っている委員は2823万円もの金銭を受け取っています。
 当該分野の専門医でない一般医療現場の大多数の医師は、治療薬の選択にあたってはガイドラインの推奨に頼らざるを得ず、このガイドラインの存在によって、NOACは多くの患者に処方されることになります。

 このような性質を持つガイドラインの作成委員等が、その薬の製造・販売企業から高額の金銭を受け取っている事実の存在は、それだけでガイドラインの公正さに疑義を生じさせます。
 果たして、NOACの承認時から上記ガイドラインの作成年までの期間の金銭の支払い状況はどのようなものだったのでしょうか。

 当会議は、ガイドラインを作成した各学会や、NOACを製造・販売した各企業に対し、2014年度以前の医師の金銭の受け取り状況を開示することなどを求めて、「心房細動治療(薬物)ガイドライン(2013年改訂版)の利益相反問題に関する公開質問」を提出しました。
 現在、全ての学会及び製薬企業から回答が届いており、その回答内容を精査し、今後の対応について検討するとともに、引き続きこの問題に取り組んでいきたいと思います。


NOAC(ノアック)
 脳卒中や全身性塞栓症などを予防する抗血液凝固療法に用いられる新規経口抗凝固剤。  現在日本で承認されているのは、プラザキサ、イグザレルト、エリキュース、リクシアナの4剤。

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