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 2016年3月2日、当会議は厚生労働大臣及び日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社に対し、プラザキサについて、血液凝固能モニタリングなしの使用は危険であり、また臨床試験結果の信頼性に疑義があり有効性・安全性が実証されていないこと、中和剤が承認販売されていないこと、安全性速報(ブルーレター)発出後も死亡例や重篤な出血の報告が続いていることから、被害の発生・拡大防止のため、販売を一時停止すべきであるとした、「プラザキサ(ダビガトラン)に関する意見書」を提出しました。

 プラザキサは非弁膜症性心房細動患者における虚血性脳卒中及び全身性塞栓症の発症抑制を適応として2011年3月に国内販売開始となりました。抗血液凝固療法は、投与量が多いと出血をきたし、少ないと発症を予防できない、管理の難しい療法です。従来は血液凝固能モニタリングにより用量を調節しながらワルファリン(ビタミンK拮抗剤)が用いられてきたのに対し、「血液凝固能モニタリングが不要」として発売された新薬がプラザキサです。プラザキサは「面倒な血液凝固能モニタリングがいらない」ことを従来品との差別化のポイントにした大宣伝の中で販売され、他のNOAC(※1)3剤もこれに追随しました。そして販売開始から5ヶ月後の8月12日には、死亡例5例を含む出血副作用報告が相次ぎ安全性速報(ブルーレター)が発出されましたが、日本循環器学会がガイドラインの改訂を待たずにプラザキサを強く推奨する「心房細動における抗血栓療法に関する緊急ステートメント」を同日発表し、使用が差し控えられるのを抑える役割を果たしました。

 日本より半年早く2010年10月に発売となった米国では出血事故が相次ぎ、年に542人もの死亡例が報告され訴訟に発展し、ベーリンガーインゲルハイム社が出血事故を防ぐ測定法や指標を知っていたことが同社の内部資料で判明し、事故は防ぎえたとして6億5000万ドル(約700億円)の賠償命令が下されています。さらに、プラザキサ承認の根拠となった臨床試験(RE―LY試験)はオープン試験(※2)で行われ、ワルファリン群の出血データがこれまでの報告と異なるなど試験設計や管理に問題があり、有効性・安全性が確立しているとはいえません。このまま血液凝固能モニタリングなしで使用するのは非常に危険です。販売を一時停止すべきです。


(※1)2ページ薬剤説明参照。
(※2)オープン試験…比較臨床試験で、服用している薬が被験薬・対照薬のいずれであるかが医師・被験者に明らかとなっている試験。厳密な効果判定のためには、いずれの薬を服用しているかが医師・被験者に分からない試験(ダブルブラインド試験)が優れるとされている。

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