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 約50年に及ぶ薬害の連鎖を断ち切るために自公政権が発足させた、厚労省「薬害肝炎事件の検証及び再発防止のための医薬品行政のあり方検討委員会」の「最終提言」(2010年4月)により、医薬品行政監視機関の創設が提言され、民主党政権は2年後の法制化を公約した。ところが、その後の3年間の政府の迷走は、政府がこのような機関を「つくらせない、つくるなら骨抜き組織に」と考えていることを示している。この3年間の政府の対応を振り返ってみたい。

 最終提言から約1年間は法制化の準備に着手しないまま、2011年3月に厚生科学審議会医薬品等制度改正検討部会での再度の審議を求めた。厚労省はここで最終提言を覆すことを狙ったと思われるが、同部会の「とりまとめ」(2012年1月)でもこの機関創設が再度提言された。その間にも2011年秋には、法律に基づかない骨抜き機関を先行して発足させて法制化後の機関への移行を図ろうと企て、薬害肝炎原告団に反対された。加えて、政府提出法案(閣法)を公約しておきながら、官僚のかくれみのになるような審議会の新設を禁止した1999年閣議決定を口実に、閣法を断念し議員立法で対応する方針へと転換した。そして、2012年6月に政権党が提出した議員立法案は、行政監視機関にとって必要不可欠な権能、権限、組織の独立性をあいまいにした骨抜き法案だった。薬害肝炎原告団の働きかけもあり、薬害防止議員連盟(議連)が2013年4月に発足すると、議連事務局が要請し厚労省が了解した「素案」が示されたが、その内容は約1年前の議員立法案とほとんど変わらない、行政監視の名に値しないものであった。薬害肝炎原告団や薬害被害者団体もこれに当然ながら反対した。そして厚労省は2013年通常国会への法案提出を断念したと報じられた。

 薬害を二度と発生させないために、真に実効性のある監視機関の創設が求められている。そのための法的制度は、政府が過去の薬害発生の反省にたち、政府の責任において閣法の形で準備することがあるべき姿だ。真に実効性のある行政監視機関とは、監視の対象である行政庁から独立した権限を有する組織すなわち第三者性が明確なものでなければならない。監視の対象たる当該行政庁の指揮監督下にあり、権限の不明確な組織では実効性が望めないどころか、行政を追認する組織になってしまう事は明らかだ。従って、本来このような機関は医薬品行政を執行する厚労省の外に設置すべきであり、仮に厚労省の内部に設置するのであれば、厚労大臣に対する権限が明確に規定される必要がある。

 サリドマイド薬害以来約50年もの間、薬害被害者たちは薬害根絶のための公的制度づくりを求めてきたが、またもや政府の理解を得られずに頓挫するのであろうか。行政システムの欠陥を是正するための行政監視機関がこの国では充分に機能していない現状も、明確になったように思う。

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