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 2012年5月25日、薬害イレッサ西日本訴訟で大阪高裁は、国とアストラゼネカ社の責任を全面的に否定する原告敗訴の逆転判決を言い渡した。

 判決は、イレッサの有効性、有用性について極めて非科学的な判断をしたが、第1版添付文書に指示警告上の欠陥がないとした判断も完全な誤りである。判決は、
①承認前に19例の副作用症例(うち11例が死亡例)が発生していたことを認めつつも、イレッサと死亡との因果関係が比較的明確なのは1例しかないから、その多くが軽快する一般的な薬剤性間質性肺炎の発生しか予見できなかったとし、
②第1版添付文書の重大な副作用欄に間質性肺炎の記載があったことから、危険性の警告として不足はなかった、と判断した。
 しかし、①については、薬事行政において行われていないような因果関係の濃淡を問題にし、抽象的な可能性を挙げてほとんどの症例について因果関係が薄いなどと切り捨てたことにおいて、その判断は全くの誤りである。

 また、②については、承認当時、イレッサは安全な分子標的薬であるとの情報が広まっており、間質性肺炎の危険性が全く意識されていなかった医療現場の実態を完全に無視する過ちを犯したものである。実際、肺がん治療に携わり、間質性肺炎に関する日本有数の研究者であった工藤翔二証人ですら、承認からしばらくの間、イレッサに間質性肺炎の副作用があるという認識はなかったと認めていた。
 
 大阪高裁判決は、表現は異なるものの、東京高裁判決と同じ判断枠組みによって、イレッサの被害の責任を全て医療現場に押しつけて被告らを免罪した。このような判断が確定すれば、がん医療の安全性は著しく損なわれ、繰り返された薬害事件を教訓に少しずつ安全性確保の薬事行政が前進してきた歴史も大きく後退させることとなる。医療関係者、市民が、この判決を医療の危機と捉えて批判の声を多数上げることが必要と考える。

 原告らは、この不当判決を乗り越えるべく直ちに上告を決断した。提訴から8年が経過した薬害イレッサ訴訟は、東日本訴訟、西日本訴訟とも最高裁に係属することとなる。この間、2011年1月には、東京、大阪両地裁の和解勧告に対し、厚生労働省が下書きも渡して関係学会等に和解勧告批判の見解を出させるという卑劣な和解つぶしもあった。

 薬害イレッサ原告団・弁護団は一体となり、抗がん剤の副作用被害救済制度の創設を含めた薬害イレッサの全面解決を一日も早く実現すべく、これからも奮闘する覚悟である。更なるご支援をお願いする。

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