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  肺がん用抗がん剤イレッサによる間質性肺炎の副作用について、国と輸入販売元のアストラゼネカ社を被告として争われてきた薬害イレッサ訴訟で、大阪地方裁判所と東京地方裁判所から相次いで第一審判決が下されました。

 2011年2月25日の大阪地裁判決は被告アストラゼネカ社の責任を認め、同年3月23日の東京地裁判決は、被告アストラゼネカ社に加えて被告国の責任も認めました。

 イレッサは、アストラゼネカ社のマーケティング活動によって『夢の新薬』などと期待されながら、承認直後から副作用の間質性肺炎により多数の死亡者を発生させました。この間質性肺炎の副作用について、イレッサの初版添付文書では、「警告」欄は設けられず、「重大な副作用」欄の4番目(同欄の最後)に記載されていたにとどまり、死亡の危険性があることも明記されていませんでした。判決では、この初版添付文書の記載が指示・警告として適切だったかどうかが焦点となりました。

■添付文書の記載の不備
 両地裁判決は、前提として、イレッサによる間質性肺炎については、承認の時点で、少なくとも他の抗がん剤による場合と同程度の頻度で発症し、致死的となる可能性があることが分かっていた、と判断しています。そして、これを厚生省薬務局長通知で定められた添付文書の記載要領にあてはめれば、「警告」欄に記載すべき場合に該当するとして、イレッサ初版添付文書の記載では注意喚起として不十分であったと指摘しました。

■被告アストラゼネカ社の責任
 その上で、両地裁判決は、添付文書の注意喚起に不備のあったイレッサは、医薬品が「通常有すべき安全性」を欠くものであり、「指示・警告上の欠陥」が認められるとして、被告アストラゼネカ社に製造物責任法に基づく損害賠償責任を認めました。集団的薬害訴訟で被告企業に製造物責任法上の責任が認められたのは初めてであり、画期的な判断といえます。

■被告国の責任
 また、東京地裁判決は、間質性肺炎の副作用について「警告」欄に記載するよう行政指導することを怠ったとして、被告国の国家賠償法に基づく損害賠償責任を認めました。

 一方、大阪地裁判決は、国の指導は「必ずしも万全であったとはいい難い」としながらも、国の対応にも「一応の合理性」があるとしてその責任を否定しました。判例上、国の規制権限の不行使が違法となるには、それが「著しく不合理」な場合でなければならない、という高いハードルが課せられており、国はこれに救われた格好です。

 このように、国の責任については判断が分かれましたが、添付文書に「欠陥」があるとして被告企業の責任を認めながら、「欠陥」を見逃して承認した国の責任を否定した大阪地裁の判断は、医薬品安全確保のために果たすべき国の役割を軽視しています。これに対し、「営利企業であるこれら業者が安全性確保のために営業上不利益となる情報を進んで記載することは十全には期待し難いことであるから、この面における厚生労働大臣の指導は医薬品の安全性確保のために不可欠」と述べる東京地裁判決には、はるかに強い説得力があります。

■早期全面解決をめざして
 判決後、原告・弁護団は被告らに対して事件の早期全面解決を要求しましたが、両判決とも被告らは控訴しました。しかし、東京地裁判決前に発生した東日本大震災の影響もあり、本件の解決について政府内で十分な検討がなされたとはいえない状況です。原告・弁護団は、控訴審判決を待たずに事件を早期に解決するよう、引き続き要求していきます。

 ご支援をよろしくお願い致します。

●イレッサ
アストラゼネカ株式会社が輸入販売する肺がん用抗がん剤。成分名ゲフィチニブ。「副作用の少ない画期的新薬」と喧伝されたが、副作用の間質性肺炎によって、2002年7月の承認から1年間で294名、2010年9月までに819名が死亡している。

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