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 昨年(2008年)の12月以降、ネット販売問題は動きがめまぐるしい。楽天などネット業者は、一般用医薬品の通信販売継続のための署名活動を自らのサイトで始めた。
 「困ります、私たち。〜ネットで薬が買えないなんて〜」とタイトルがついた画面を目にしたことがある人は少なくないのではないか。消費者の安全性担保の名の下で、ネットいじめの規制強化が行われようとしている、このままでは授乳中の新米ママさんや、歩行困難な障害者、高齢者に薬の購入ができなくなる人が出る、と訴えている。また、賛同者や利用者の声として「病気の子どもを抱える母親がネットで買えなくなると困る」「高齢者家族は病気になっても薬も飲めなくなる。弱者を切り捨てるのか」といったメッセージを紹介する。これらの人々の言葉は、利便性は安全性を超えるというがごときにのたまう。専門家ほどの知識を持ち合わせない私にも、安全性を軽視する空恐ろしい言葉が続いていく。
 薬害オンブズパースン会議は、2008年12月、全国消費者団体連絡会など消費者団体と連携し、舛添厚労大臣、甘利行政改革大臣、野田消費者行政推進大臣に対し、一般用医薬品のインターネット販売の規制を求める要望書を手渡した。しかし、舛添大臣は度々「すべての国民に安全に医薬品を届けることも国の責務」という発言を繰り返した。
 今年(2009年)の2月6日、厚労省は6月施行の薬事法改正に基づく医薬品販売制度に関する省令を公布すると同時に、舛添大臣は、新たに改正に関連して検討会を設置すると発表した。パブリックコメント等で医薬品の購入が困難になるという声が多数寄せられ、薬局や店舗などで医薬品の購入が困難な方をどうするのか、インターネット等を通じた販売の在り方について議論をしていただきたい、と設置理由を述べた。
 この医薬品新販売制度の円滑施行に関する検討会は直ちに招集され、6月の施行までに話しの目処をつけるとし、2週間に一度という早さで開催されている。
振り返ってみれば、一般用医薬品販売の検討は平成16年から始まって、4年半かけて議論を尽くしてきた。薬事法に新たに消費者保護という視点を盛り込み、消費者の安全性を確保するために、対面販売を原則とすることを柱として制度設計を行ってきた。用法用量を守るだけではリスクを回避できないという医薬品の特性に鑑みれば、ネットで医薬品を購入するということを安易に考えるべきではない。
 ネット販売問題を通じて、消費者の医薬品に対する過剰な信頼は、消費者の不勉強という言葉では片付けられない根深いものを感じる。専門家の情報提供が不十分なところに、正しくない健康情報満載の記事が、売りたい側から大量に流され続けてきた。いや、医薬品に対する過剰なまでの信頼は、戦後の貧しい日本に欧米文化と共に現れ、多くの人を伝染病から救った西洋医学は、今も羨望の眼差しの中にあるのかも知れない。円滑施行に関する検討会は、その名とは対照的に少しも円滑にはいっていない。意見を述べ合うばかりで平行線を辿っている。
 しかし、今回は消費者とネット業者との戦いではないと私は思っている。消費者が真に問うているのは、薬剤師等の医薬品を扱う専門家の正義が、いったい何処にあるかということだ。

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