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 2007年度医療費が7月16日に公表された(中央社会保険医療協議会総会資料)。概算医療費は33.4兆円で1兆円(3.1%)の増加であるが、最も増加したのが調剤医療費で、前年度より9%近い増加を示し、5.2兆円(全体の15.5%)に達した。外来医療費が12.4兆円、1.8%増であるのに対して、その金額と増加率の高さに驚いた。
 増加の主な要因は、処方箋1枚ごとの投与日数の増加と、1日当たりの薬剤料の増加である。投与日数は平均17.9日とされているが、実際の調剤の現場では投与日数の制限が一部の精神神経用剤と麻薬を除いて解除されてからは、2ヶ月分から3ヶ月処方もしばしばという現状である。投与日数に関する問題も大きいが、ここでは、薬剤料の増加の実態を明らかにしたい。
 調剤医療費の薬効別データを見ると、前年比10%以上の増加率を示している薬効群に、新薬の消費拡大の実態が現れている。10%以上の増加率を示している薬効群は、中枢神経系、泌尿器系、血液・体液用薬、その他の代謝性医薬品である。中枢神経系ではSSRI等の抗うつ剤が含まれるその他の中枢神経用薬が最も高い21.6%の増加率である。泌尿器官用薬では新薬が相次ぐ過活動性膀胱(頻尿)治療薬、血液・代液用薬では抗血小板剤プラビックスが従来のチクロピジンから置き換わろうとしている。その他の代謝用薬では骨粗鬆症治療薬、と、それぞれの薬効群に最もマーケティングの激しい、一連の高薬価薬が浮かび上がる。
 一方、最も金額が大きい薬効群が循環器系で、全体の30%を占める。中でも血圧降下薬が44.5%を占め、増加率も10.9%と大きい。2007年度の血圧降下薬の売り上げ高は7900億円で、その50%を占めるのがブロプレスに代表される6種類のアンジオテンシン脅容体拮抗薬(ARB)である(薬事ハンドブック2008)。ARBはいずれも薬価が高く、後発医薬品も未発売である。腎保護作用に優れるとされているが、評価は未だ定まっていない。調剤医療費を押し上げている最も大きな要因の一つではないかと思う。
 医薬品費の削減の手段として後発品の使用を数量ベースで30%まで拡大することをめざして政策的に大きく舵が取られている。2008年4月から、院外処方箋では、特に医師が変更不可のサインをしなければ薬局で後発薬に変更することが可能となった。しかし、問題は、調剤医療費の実態が示すように、後発品が未発売の新薬の処方が圧倒的に多いことである。
 医師の薬の選択は何に依拠しているのであろうか。保険薬局マーケティング研究会代表早瀬孝彦氏の調査によれば、医師の薬の情報入手先は、製薬メーカーが98%を占め、次いで医師会(62.7%)、医学専門誌(60.6%)、添付文書(53.1%)、そして学会(32.1%)、インターネット(18.2%)、保険薬局(16.0%)という順である。ほとんど製薬メーカーが関与した情報源であることがわかる。このような実態からは、先の最もマーケティングの激しい医薬品の処方実績が高くなることは容易に想像できる。 
 製薬メーカーに依存しない情報源の一つとして、本会議10周年記念シンポジウムにて連携が築かれたプレスクリール・インターナショナル誌の情報について、国内で販売される医薬品に限ってだけでも日本語版を作成して情報提供できないであろうか。全国のタイアップグループメンバーが協力し合えば可能ではないかと思う。  
 情報に関連して、インフルエンザ治療薬タミフルと異常行動に関する厚生労働省の研究班が発表した調査結果について、解析上の誤りがWeb上で指摘され、マスコミも報道するという状況が生まれた。その直後、データ処理の誤りを理由に「10代へのタミフル」解禁を判断する安全対策調査会が延期となった。臨床試験データの開示が完全に行われるならば、医薬品の評価もWeb上での議論となり、安易な承認が通用しなくなる状況が生まれることが想像される。メーカー主導の大規模臨床試験もしかりである。
 医療費は国民が苦労して納めている保険料と税金でまかなわれている。副作用データの軽視やメーカーに都合の良い解析によって医薬品が評価され、効果の不確かな医薬品や危険な医薬品に多大な医療費を費やすことを続けさせてはならない。医師、薬剤師、そして使う側の患者が、薬の効果に対して、厳しい目を向け、有効で、安価で、安全に使える薬にもっと固執すべきではないだろうか。5兆円の医療費を占める調剤にたずさわる薬剤師が、メーカーに依存しない薬の情報に目を向け、医師に情報提供する存在になってこそ、医薬分業の意義が発揮される。薬学6年制の中で、そのような意識改革と医薬品情報の収集評価の技術を教育できないものかと思う。

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