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「薬害オンブズパースン会議」主催の最近のセミナーは、メダワーさんも、精神科医であるヒーリーさんも、精神科薬に関する製薬企業のおそるべき企みと世界的野望を講演した。2人とも精神科医療の分野の人が続いたのは、精神科医療がはらむ脆弱性が問題を明らかにしているからである。テーマとなった抗うつ剤は、製薬企業にとって、一般の人々を地球規模でターゲットにできる有望な商品だからである。グローバリゼーションとストレスと不安が蔓延する時代において、自分の気分の落ち込みの認識にEBM(証拠に基づく医療)は不要であり、容易にユーザーとして取り込まれてしまう。私は精神障害者の法的な権利擁護者として20年活動してきたが、薬に対する挑戦はほぼ放棄せざるを得なかった。日本では約330万人の精神障害者が存在し、その内33万人が精神病院に入院している。入院患者が日本の医療の特徴である多量多剤服薬に苦痛を受け、時には人体実験らしい訴えも受けてきた。薬が懲罰的な化学的拘束衣として使用されることもある。社会から隔離された入院患者は突然死や、薬の副作用による悪性症候群などで多数の命を落としている。これらの死亡事故の多くは医療的に正当化されて葬り去られてしまっているが、もし調査制度があれば必ずや薬害事件となっているだろう。しかし、精神障害患者は声なき人々で、その前に立ちはばかったのは厚い医療と社会の壁であった。   
この当時は、製薬企業はまだ、医療の後ろに隠れていたが、アメリカでプロザックの大ブレークが日本にも伝わり始める1980年代頃から、製薬企業は専門家以外の集団に触手を伸ばし始めたようだ。精神医療の分野では「家族会」なるものが組織化されていて、最初のターゲットとなった。製薬会社がスポンサーになり有名大学教授を講師にした勉強会を主催したり、家族会機関紙にそれとない宣伝記事を載せ経済的援助もしながら、新薬への切り替えに直接・間接的な圧力を医師にかけるよう家族会を誘導してきた。アメリカのNAMI(全米精神障害者家族会)はその代表的団体で、製薬会社から高額の寄付を受けている。 地域で生活する精神障害者が増え、ユーザー団体として声を上げ始めると、製薬会社はそこにも着目した。患者の自己決定権や当事者主義の権利擁護者としても登場していて、当事者の関心の高いテーマを選んで勉強会や調査・研究などの名目で経済的援助も行ったり、進んだ外国の精神医療制度見学のツアーを企画し、ユーザーを参加させたりしている。こういう企業の圧倒的な力と包囲網の前に、私たちは無力感を募らせてきた。
最近は臨床現場に定着したSSRIや新世代の抗精神病薬も日本の医者の多量多剤の伝統は抜けがたく?多剤処方の一部となっている現場を見受ける。これも恐ろしい。こういう現状に対し、「薬害オンブズパースン会議」の活動は、ハイレベルであるが今のところ“ミサイルに竹やりでの応戦”の感もする。しかし、私は自分の経験を生かせる分野で非力ながら参加していきたい。展望はきっとある。

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