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 2003年12月にプロトピック0.03%小児用軟膏(成分:タクロリムス)が発売されました。この薬は、アトピー性皮膚炎治療薬として、中程度の強さのステロイド軟膏に匹敵する効果があり、かつステロイド軟膏で問題となる皮膚萎縮などの副作用がない薬として注目されているものです。1999年11月からは0.1%製剤も成人用として市販されています。
 しかし、成分のタクロリムスは、そもそも骨髄移植や臓器移植後の拒絶反応抑制のために用いる免疫抑制剤として開発され、使用されてきたものです。そして、その免疫への作用をアトピー性皮膚炎の炎症を抑える作用にも応用したものが、プロトピック軟膏です。このような免疫抑制作用の点から考えると、体の防御反応である免疫が抑制されることで、発がんや感染症を増加させる危険性が危惧されます。実際、臓器移植後などに用いる全身投与製剤(経口剤や注射剤)では、がん(特に悪性リンパ腫)が増加することがわかっています。また、2001年から成人用、小児用ともに市販されている米国ではすでに、非常にまれにではありますが、リンパ腫や皮膚がんが発生したことが報告されています。
 このような状況の中で、日本皮膚科学会は昨年12月に「タクロリムス軟膏(プロトピック軟膏)使用中およびこれから使用される患者さんへ」と題するQ&Aの形の文書をだし、ルールにしたがって使用すれば安全性に問題はないとする見解を公表しました。
 しかし、パースン会議としては0.1%,0.03%軟膏の承認審査資料や公表論文などを検討した結果、どちらの製剤もその臨床的安全性は確認されておらず、特にその発がん性については大きな不安が残されていると考えています。そして、昨年12月5日に、厚生労働大臣、薬事食品衛生審議会、日本皮膚科学会、および藤沢薬品工業あてに公開質問書を送り、安全性に関する問題提起をおこないました。また藤沢薬品工業には公開質問書の中で、発がん性に係る動物実験データの公開も求めました。これに対して、日本皮膚科学会と藤沢薬品工業からは、それぞれ今年1月13日と16日付けで回答書が送られてきましたが、その内容は、どちらもプロトピック軟膏の安全性については問題なしとするものであり、藤沢薬品工業からは動物実験データの公開はしないとの返事でした。また日本皮膚科学会の回答には、過去の使用者に対する追跡調査やアトピー性皮膚炎手帳の配布・記入体制の整備について学会として検討する旨が記されていましたが、具体的方策は示されていませんでした。
 そこでパースン会議は、あらためてプロトピック軟膏の安全性の問題を提起するために、「タクロリムス軟膏(プロトピック軟膏)使用中またはこれから使用される患者さんおよび医師、薬剤師の方々へ」と題するQ&Aを作成しました。また、厚生労働省、日本皮膚科学会、藤沢薬品工業あてに、公開質問書への回答書をいただいたことへの返事として、プロトピック軟膏の安全性問題に関する公開討論会の必要性を呼びかける文書を送付しました。今後、この呼びかけに対する厚生労働省等の対応をみつつ、パースン会議としての対応を検討していく予定です。

※プロトピック(タクロリムス水和物)軟膏
 タクロリムスは、1984年、藤沢薬品が放線菌の代謝物の中から見い出したマクロライド系の新規免疫抑制剤。タクロリムス0.1%含む軟膏がプロトピック軟膏として16才以上のアトピー性皮膚炎を適応症として、1999年日本で認可された。2001年アメリカとカナダで、0.1%、0.03%(小児)が認可(中等度から重症の患者に短期間使用。または長期の場合は間歇的に使用という条件付き)。2002年、スイス、ドイツ、イギリス、で認可。

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