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 「イレッサ薬害」は、今後の薬害の拡大を予測させる大事件の様相を呈してきている。薬害オンブズパースン会議に相談のあった31歳の娘さんを亡くされた方は自分でインターネットを調べてイレッサがよく効きそうだと、主治医にお願いして使ってもらったという。情報化が進み、患者を直接ターゲットにした宣伝で今後ますます新薬の使用が拡大し、被害も拡大するだろう。おまけにイレッサは、許可を受ける前から、患者から医師に依頼するようにし向け、医師には無料で提供して未承認段階からの使用を広げていた。宣伝文句は「分子標的抗がん剤」「がん細胞だけ狙ってやっつけ正常な部分には影響なく安全」。こうして、医師も患者も大いに期待させ、承認前の使用者は外国では約2万人、日本でも、国内89病院の医師が個人輸入し、約300人が承認前に治験外で使用したと報じられている。
 イレッサは、新しいタイプの抗がん剤として、2002年1 月25日に承認申請され、5 カ月あまり後の7 月5 日、外国ではどこも承認していないのに、日本で超スピード審査で承認された(保険適用8月30日)。適応症は「手術不能又は再発非小細胞肺癌」である。他の抗がん剤との併用も別に制限されていない。
 2002年7月市販開始(保険適用8月30日)からわずかの間に副作用による死亡者は10月23日までに39人(使用者数約10000人)、12月13日までに124人(使用者数約1万9000人)と、うなぎ登りに増加してきた(12月13日までの重篤例は494人)。
 実はイレッサが標的にすると言われるもの(上皮成長因子受容体)は、癌だけでなく、体中の(血球を除く)ほとんどの正常細胞にあり、新陳代謝で新しい細胞ができる時に不可欠のものである。だからこれを抑えると、癌だけでなく正常の組織にも傷がつく。
 実際、動物実験では、がんに効く量(50mg/kg)の10分の1の少量(5 mg/kg )で、肝細胞壊死という重大な毒性が現れた。
 No39という臨床試験(欧米人が対象)では、肺癌が少し縮まった人は10.2%であったが、約7%の人が死んだ。2002年12月25日に開催されたゲフィチニブ安全性問題検討会で開示されたイレッサの副作用例を検討したところ、服用を開始して1週間以内に副作用症状が出始めた人では、80%が死亡していたことが判明している。症状が朝に始まりその晩9時に死亡した人もいる。心不全の人では特に症状の始まるのが早く重かった。
 どうして人によってこのような重い副作用がこれほど高頻度に起きるのか。その理由はいくつか考えられるが、最も大事な点は、正常組織に確実に害があること、もう一つは、イレッサの効き方には個人差が大きく、血中の濃度が一番高い人は、低い人の30倍から100倍にもなる点である。抗癌剤を標準用量の10も使えば毒性は必発だが、イレッサの場合は、それが100倍にもなる。そして、だれが100倍の濃度になるか、だれも分からないで使っている。これは危ない賭けだ。 
 ところが、そのような性質があることは十分分かっていながら、不完全な基準で効果判定、安全面の判定がなされて日本では承認された。
 それでも、メーカーは、イレッサを使えば診断間もなくの患者では寿命が延長するのでは、と期待し、合計2000人を超える患者を対象として他の抗癌剤と併用した臨床試験を実施した。大規模で信頼性の高いこの臨床試験の結果は期待に反し、イレッサを使わない人の方が長生きだった。そのうちの一つは、使わなければ平均11か月生存、使うと1.2 カ月寿命が短くなったというもの(差は有意ではないがp=0.3)。この報告を受けて米国のFDA(食品医薬品局)では承認延期を決定したのに、日本では逆に承認したのである。
 今イレッサを使用している人はすぐにやめることをお薦めする。すぐに中止しても反動で不都合なことが起きることはほとんど考えられない。まとめると、
1. イレッサを使って癌が少し小さくなる確率は100人中約10人
2. イレッサで肺障害など重い副作用は100人中10〜30人
3. イレッサによる肺傷害の副作用は中止せても治らないことがある
4. イレッサの副作用で死ぬ確率は100人中約7人
5. イレッサを使うと、寿命が延びるよりも短くなる可能性の方が高い
6. 劇的な効果が出るか効かないか、死ぬか死なないかは使う前には不明
 薬害オンブズパースン会議では、イレッサ110版を開設したところ、これまでに119件の相談があり、うち53件が死亡された例であった。そのうち3分の2はイレッサとの関連が相当強く考えられる例であった。今後も受け付け、詳細情報入手のうえ、医薬品・治療研究会、医薬ビジランス研究所で検討を進める予定である。
 医薬ビジランス研究所のイレッサ情報は、NPO医薬ビジランスセンター『薬のチェックは命のチェック』速報版(http://npojip.org)で提供している。薬害オンブズパースン会議(http://www.yakugai.gr.jp/)からもリンクしている。

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