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 コレステロール低下剤は、虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞)を予防するため投与されているが、日本人、特に日本人女性に対する効果は全く証明されていない。エビデンスは虚血性心疾患の既往歴がある白人中年男性での再発予防効果であり、既往歴のない白人中年男性での発症予防効果は2論文、そのうち寿命延長効果は1論文で証明されたにすぎない。心筋梗塞による死亡率が米英の約5分の1という我国では、予防効果はがんなどの増加で帳消しになり、寿命は延長するどころか短縮している可能性の方がずっと高い。事実、スタチン類の一つ、シンバスタチン(商品名:リポバス)の日本における臨床試験の結果が最近発表されたが、コレステロ-ル値を200以下に下げると、かえって死亡率が上昇することが明らかにされた。
 病気とされるコレステロールの境界値はここ30年の間に徐々に下げられ、かつては250〜260mg/dl以上だったのが、日本動脈硬化学会は平成元年以降、220以上を境界値、つまり病気とした。一方、日本人の平均コレステロール値は徐々に上昇し、「高コレステロール血症」とされる人が急増した。当然、コレステロール低下剤の使用量も急増、中でもスタチン類と呼ばれる医薬品の代表格・プラバスタチン(商品名:メバロチン)は、日本における保険薬の売上げトップとなり(1999年1850億円)、スタチン類の総売上げは5品目で2800億円となった。
 また健診におけるコレステロ-ル値と寿命などの長期追跡調査では、コレステロール値は240〜280で寿命が最も長いという結果が多い。動脈硬化学会の200以下が適正などという基準は、数ある病気の中で虚血性心疾患だけに焦点を当てたものである。
 コレステロール低下剤の過剰使用の問題は浜六郎医師が「薬のチェックは命のチェック」第2巻特集、「正しい治療と薬の情報」などの中ですでに徹底的に検証している。昨年8月、セリバスタチン(商品名:セルタ、バイコール)というスタチン類の一つが販売中止・自主回収となった。副作用である横紋筋融解症が多発したためである。諫早干拓の国家事業費を越える無駄な薬剤費を毎年、製薬会社にたれ流すことには目をつむり、医療費抑制には、患者さんの自己負担率の増加を計るだけでは国民は納得しないのではないか。

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