閉じる

1. 薬害オンブズパースン会議の5年
 薬害防止の一助として民間団体薬害オンブズパースン会議が5年前に設立された。パブリック・シチズン, HAIの域には達してしないが, この5年間ですこしづつみえてきたものがある。

2. 健康人に使う薬
 薬は本来病気に使うものである。ところが昨今, 薬は「病気の予防」にも使われている。そして何が「病気」かは簡単ではない。例えば, 降圧剤, コレステロール低下剤, 糖尿病治療薬(血糖値降下剤)は, 数値を下げることが命を延ばすことにはつながらず, 逆効果なこともある。薬を使うべき場合とそうでない場合の境界線を検討する必要がある。

3. 臨床試験と人の権利
 臨床試験は人を使った実験である。参加する人の権利(標準的治療を受ける権利, リスクを含めて説明を受ける権利, 自己決定権など)が充分保障され, 公正な臨床試験が行われ, 予期しない結果であった場合も結果が公表されることなど, 確保すべき条件はいくつもある筈である。企業秘密(企業の財産権)のベールに包まれて見えない部分が多いが, 臨床試験の仕組みを改善することが必要なように思われる。

4. 「薬がつくる病気」の発見
 薬が病気をつくることがある。それは避けがたい現実である。したがって「薬がつくる病気」を早期発見し対策をとることが重要である。
 多くの有害事象報告が厚生労働省に集まっているようであるが, 実際にそれが充分活用されているのかは, 外の者にはわからない。厚生労働省に集められた情報について, 情報公開法に基づき公開を求めたが, 医学的な情報まで黒塗りされていた。
 さらに, 重要な報告が医療現場に埋もれたままになっている可能性もある。特に一般市販薬では被害情報は埋もれがちである。
 「薬がつくる病気」を医学薬学的に研究すれば得るものは大きい筈である。そのためにも報告制度を真に活きたものにする必要がある。

5. 課題
 或る時点をとれば, 或る薬について厚生労働省は医療現場に慎重な使用を求め, 薬害オンブズパースン会議は使用中止を求める, と意見が別れることが続いている。厚生労働省は製薬企業に任せている部分が多いようである。薬害防止の公的な組織は, 厚生労働省以外に必要なように思われる。
 当会議の薬事委員会アンケート調査などからは, 医療機関によって「薬がつくる病気」の予防・発見・対策度に差があるものと推測された。全体の薬害防止水準を確保するために, 今後各医療機関の薬害防止度を調査・評価・公表することも考えられる。
 日本には, 薬害がくりかえされてきた歴史がある。薬害を生む土壌がある。薬害防止策を各団体が研究・提言してきた。しかし, 研究・提言は現実の政策となっていない。薬害オンブズパースン会議の課題は山積している。

閉じる