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 糖尿病薬ノスカールの副作用による死亡例に対し、医薬品機構の給付決定が出たので、これに纏わる報告をする。
 ノスカールは、インスリン非依存型糖尿病を適応とする薬剤であるが、重篤な肝障害の発生が指摘され、当会議も一昨年来、三度に亘って情報公開請求や承認取消等を求める要望書を提出している。
 報告の事例は、平成九年一一月の死亡例であり、同年一二月に発売元である三共製薬が緊急安全性情報を出すに至った理由の一つになっているとも推測されている。
 同事例で遺族は、医薬品機構に対し、平成一一年一月に遺族年金等の給付を申請したが、これに対し医薬品機構は不支給の決定を出した。
 その理由とするところは、ノスカールの能書では、同薬剤の投与は、「食事療法、運動療法だけでは充分な効果が得られず、インスリン抵抗性が推定される場合」などに限るとされているところ、当該投与例で担当医は、ノスカール投与以前に運動療法や食事療法等を実施しておらず、したがって、当該事例は、法が定める給付要件である「医薬品が適正な使用目的に従い、適正に使用された場合」に当たらないと言うところにあった。
 遺族は不支給決定を不服として審査申立をしたが棄却され、やむなく行政訴訟に訴えた。
 右決定の問題点は、大きく二点考えられる。一点目は、不適正使用の範囲の解釈が広すぎる点である。そもそも、機構の前身たる医薬品副作用被害救済基金は、サリドマイド、スモンなどの経験を踏まえ、医薬品による健康被害の迅速な救済のために設けられた制度であり、したがって、この制度目的からすれば、医薬品の不適切使用として「医薬品の副作用」に当たらない場合とは、医師等による当該薬剤の使用方法が明らかに医療過誤などを構成する場合等、他に責任の所在が明白な場合に限ると解釈すべきであり、本事例のように、医師の責任が不明確な場合は救済の対象とすべきであるという点である。二点目は、認定では運動療法や食事療法等を実施していないことを不適正使用の根拠としていたが、当該事例の病状経過からすれば、仮に、運動療法や食事療法等を実施し、その後にノスカールを使用したとしても同様の結果を生じさせたものと解され、運動療法や食事療法等は使用に至るプロセスの問題に過ぎなかったと言うべきであって、被害者救済の観点からすれば、そのように単なるプロセスの問題を適正使用の解釈に持込むべきではないという点である。
 ところで、裁判の行方であるが、提訴後、三共製薬がノスカールを自主回収するところとなり同薬剤の危険性は一層明白になった。すると、これに呼応するかのように厚生省サイドも裁判外の話合いに応じるところとなり、結局、裁判外で、不支給決定は取消され、遺族年金等が支給されることとなり、したがって、裁判も取下げとなった。遺族にとっては結果オーライであるが、何ともおかしな機構と厚生省の処理であった。いずれにしても、今後、機構の給付決定の判断に当たって「適正使用」の解釈が、被害者の迅速な救済の観点から正に適正になされるよう監視すべき必要がを感じた。

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